愛しているから
進藤が顔を近づけて来た時に思わず手でその口を塞いでしまった。
進藤はびっくりしたように大きく目を見開いて、でも怒りはせずにそっとぼくの手を外した。
「なんで塞ぐんだよ」
「なんでって…」
それは夕飯でも食べようかと立ち寄ったファミレスでのこと、彼はぼくの言った言葉が聞き取り
にくくて体を寄せて来ただけだったのだ。
「こんな所でスルわけ無いじゃん」
「解ってる。解っているけど」
それでも反射的に体が動いた。
それくらい彼は頻繁にぼくの隙を突いてキスをしてくるから。
「あーあ、なんか傷ついたなあ」
大きく溜息をつかれて胸が痛んだ。
「ごめん、そういうつもりじゃなかったんだ」
「じゃあ、どういうつもりだったんだよ」
どういうつもりで居たら、相手の口を手で塞ぐことになるんだよと重ねて言われて言葉に詰まっ
た。
「別に嫌だとかそういわけじゃなくて…」
彼にされるキスは好きだった。
耳に、額に、頬に、瞼に、鼻筋を辿るように細かくキスの雨を降らせる時もあれば、じゃれるよう
に唇に甘く噛みついて来る時もある。
不意打ちのキスも、不意打ちで無いキスもどれもみんな大好きなのに、それでもつい手が出てし
まったのは、たぶんまだぼくがキスに慣れていないからなんだろう。
「びっくりしたんだ。ただ…それだけなんだ」
「こんなにしょっちゅう一緒に居て?」
「うん」
「いつも腐る程してんのに?」
「それでも―」
それでもキミにキスをされる時は、いつでも初めてされる時のような気がすると言ったら、進藤は
少し黙って、それからにいっと顔中で笑った。
「おまえさぁ…」
「なんだ?」
「それってすっごい殺し文句なんだけど」
「え?」
「だって、それって」
おれに少しも飽きて無い。
いつまでも、こんな知り合って、付き合って、何年経っても褪せること無くおれが好きってことなん
じゃんかと、言われて顔に火がついた。
「そ、そういうわけじゃ…」
「無いんだ?」
「無いと―」
思うと言いかけたぼくに、ふいにぐっと進藤が顔を近づけて来たのでぼくは思わず彼の口を塞い
でしまい、次の瞬間目で笑われた。
『嘘つき』
指の下で唇が動く。
『やっぱりおまえベタ惚れじゃん』
おれに―と、最後まで聞くのは恥ずかしくて耐えられなくて、ぼくは弾かれたように手を離すと、
それからにやけきった彼の頬を思い切りパンと殴ったのだった。
※タイトルの後にはこう続きます「―いつまでも慣れない」。なんかまだ昨日の余韻で幸せなので、幸せのお裾分けということで。
いや、お裾分けというよりお返しですね。いつもいつもたくさんの幸せをありがとうございます。今日もヒカアキ大好きだー!
2010.8.15 しょうこ