Fetishism




肌の上を這い回っていた指が、いきなりぴたりと止まった。

いい加減いじられ続け、焦らされ続けて息が上がったこちらとしては、一瞬の息継ぎと有り難くその
瞬間を享受したけれど、しかしすぐに今度はあまりの動きの無さに逆に焦れて来てしまった。


「―進藤」

瞑っていた目を開き、寝そべっていた体を少しだけ起こして見てみると、ぼくの上にのしかかってい
る彼は掌を肌に置いたまま、妙に嬉しそうな顔をしてじっとぼくの腹を見詰めているのだった。


「何をやって―」

いるんだと続けようとした瞬間、彼は俯いて、ぺろりと舌が腹を舐めた。

散々触れられて敏感になっている肌である。ひっと思わず叫びそうになって、でも辛うじてその声は
喉の奥に飲み込んだ。


「一体何をやっているんだ」

続きをするつもりが無いならぼくの上からどいてくれと、剣のある声で言ったら、「ごめん」と悪びれ
なく謝った。


「だってさぁ」
「だって、なんだ」


している真っ最中にその気持ちを逸らす、それにどんな相応の理由があるのだと、待ち受けるよう
に睨んだら、進藤は更に悪気の無い顔でにっこりとぼくに笑いかけたのだった。


「だって、すごく可愛かったから」

―へそ、と、今度は「何が」と問う前に言う。

「おまえの体、全部隅々まで知ってると思ってたけど、今ふっと見たらさ、おまえのへそ、なんかすげぇ
可愛いんでやんの」


それでつい見とれていたのだと、こっちとしては何とも返事のしようも無いことを言われてしまった。

「そんな所…」

褒められたって嬉しくは無い。

「あ、何? 他の部分は良くないのかって思ってる?」

いつもせっかちで人の気持ちの先読みをする進藤は、ぼくの沈黙をそう取ったらしい。

「大丈夫だって、へそはすっげえカワイイけど、もちろん…」

あれもこれも、それもカワイイと臆面も無く挙げ連ねてくれた言葉は、人前ではとても言えないような
部位ばかりで、思わずぺちりとその頬を軽く叩いてしまった。


「ふざけるのもいい加減にしろ」
「ふざけてなんかいないって、マジおまえの体、どこを取っても最高だって」


でも今日の収穫はやっぱこれかなと、再びゆっくりと周囲をなぞるようにして腹―へそのまわりを指
で撫でる。


「へそなんか、どうでもいいと思ってたんだけど、おまえのへそってすげえ綺麗でカワイイのな」
「―もういい」
「いや、よくないって、今までおれ、その真下は念入りに可愛がって来たけど、へそはちゃんと見て
なかった。これからはここも忘れずに大切に扱うよ」


そしてそっと目を閉じると、口づけるようにしてぼくのへそにキスをした。

「変態だ」
「そうかも」


でも、本当にマジでおまえのへそって最高にカワイイぜ? とにっこりと笑われて頬が染まる。

彼にかかると爪の一つ、睫の一本さえも全てが「綺麗」で「カワイイ」になってしまうから叶わない。

「な、このへそおれにくれない?」

おれだけのものにしても構わないかと言われて苦笑した。

「もうぼくの体は全てキミのものじゃないか」
「そうだっけ?」
「そうだよ!」


親の体から生まれ出でたこの体が、いつどの瞬間に彼の物になったのか、自分でもよくわからな
いけれど、間違いなく細胞の一つまで彼の物だと確信出来る。


「だったら、何してもいいんだよな?」

そして止める間も無くへそのくぼみに舌を入れるので今度は押さえられずに声をあげてしまった。

「…カワイイ声」

にやっと笑うその顔が憎らしくて愛しい。

「腹を見せろ」
「え?」
「ぼくだけが見られて、奪われるのは癪だ」


キミの腹もぼくに見せて、ぼくにも好きなだけ愛させろと言った瞬間のその顔は悔しい程に嬉しそ
うだった。


「いいぜ、見ろよへそもその下も」

存分に愛してくれていいと言うのにまたぺちりと頭を叩く。

「下は余計だ」

組み敷かれていた体を振り払って起きあがる。

そして彼の体を引き倒すように寝かせて、ゆっくりと肌に指を這わせた。

引き締まった胸からゆっくりと下りて、腹にかかった所でまじまじと彼の体の中心を見た。

「…うん」
「なんだよ」
「確かにカワイイなと思って」
「おれは別に可愛くなんか―」


むっとして言い返してくるその前に、同じように彼のへそのくぼみに舌を入れた。

腹を波打たせ、ひゃっと小さくうめき声を上げると、進藤は真っ赤な顔をして起きあがった。

「やっぱ、止め、止め! こんなの我慢出来ない」

おまえがおれを可愛がるんじゃなくて、おれがおまえを可愛がるんだ! と勝手極まりない言葉を
吐いて、それからぼくを再び腕の下に組み敷いた。


「今度は寄り道しないからな!」
「最初からぼくはそう望んでる」


キミが勝手に寄り道をしたのだと言いながら、どうしても笑いがこぼれてたまらずに笑い声をあげ
ていたら、憤慨したような彼の口に無理矢理唇を塞がれてしまったのだった。




※これはMるじさんの某レポを読んでいて「へそ」についての件で思いついて書いた話です。なんかこう鮮明に画像として
目に浮かんだって言うか(笑)
レポの内容とは全然関係無いんですがきっかけを作ってくださったということで、Mるじさんにこの話を捧げます。
2010.5.20 しょうこ