Photograph-A
進藤の小さな頃の写真を一枚持っている。
ぼくと出会うより更にずっと前。
まだ腰の位置より小さい彼がお母さんのスカートの裾を握ったままじっとこちらを睨んでいる。
『ああ、それきっと怖かったんだ』
彼の家に遊びに行って、アルバムを見せて貰った時、気になって尋ねたら、進藤は苦笑いし
ながら言ったのだった。
『なんとなーくだけど、ぼやっと覚えてるんだよな。父親だかじーちゃんだかが、カメラを構えた
まま笑え笑えって必死になって言うからさ』
逆にそれが怖くて笑えなかったと。
確かに言われてみれば写真の彼は泣くのを堪えているようにも見える。
『進藤これ―』
『ん?』
『いや、なんでもない』
くれないかとのど元まで出かかった声をぼくはそのまま飲み込んだ。言えばきっと彼は絶対に
嫌だと言うだろうから。
だからぼくは彼が飲み物を取りに行った隙に黙ってそっと写真を剥がすと、胸ポケットに忍ば
せたのだった。
そして、以来、ふとした時に取り出しては眺めている。
可愛いけれど深く眉ねの寄ったその顔はいかにも我が強そうで、今の彼を予見している。
「…お母さんはさぞ大変だったろうな」
こんな我の強そうな子どもを育てるのはきっと大変だっただろうと思う。
そうでなくても碁打ちになどなってしまってどれほど心配しただろうか?
そんな思いをして育てた一人息子を思いがけず自分などが攫って行ってしまったのだから、大
切にしなければ罰が当たるとそう思った。
「大事にする。きっと一生大事にするから」
だからどうか許して下さい。
そう小さく呟いて、ぼくは今日も小さな彼の写真を指でそっと撫でるのだった。
※写真を撮る時に子どもを笑わそうとする大人は鬼気迫っていて怖いですよね(笑)
それにしてもヒカルって全く親の言うこときいて無さそう。全部自分で決めて事後報告って言うか。
「おれ高校行かない」「おれ、碁打ちになるから」「確定申告ってのするようになるんだ」「今広島に居るから」
「おれ、塔矢と一緒に住むから」等々。そのうちきっと「おれ塔矢が好きだから結婚する」って言われても「はいはい」となるような気がします。
2010.9.2 しょうこ