Photograph-H



モノクロの写真を持っている。

ずっと前、買ったばかりのデジカメをいじくっていたら、ちょうど目の前で塔矢が目を覚ました。

夕べ抱き合って眠った後のけだるさを残したまま、ゆっくりとベッドから下りようとした塔矢は、
ちょうどおれが構えていたカメラの液晶に入り込んで、ほとんど反射的に撮ってそのまま慌て
てカメラを隠した。


『何?』

振り返った塔矢に何と言って誤魔化したのかはもう覚えていない。

でも後で見て見たら。撮れていた写真はとても綺麗でしばらく見とれた。

左から差し込む光の中、俯き加減の塔矢が白い背中を晒して写っている。

顔は見えない、俯いているので髪型もよくわからない。

知らない人間が見たらぱっと見、それが誰か気がつかないかもしれないと思った。

(でも塔矢だ)

物憂げな空気と、けれどその背中のラインには許した者にだけの優しさがある。

愛情を貪り合った結果がこの背中なのだと無言で語っているようなそんな写真だったので、お
れはそれをこっそりと一枚だけプリントした。


モノクロに加工したのは、カラーだとやはり生々しかったのと、万一人の目に触れた時にモノ
クロの方が塔矢だと分かり難いだろうと思ったからだった。


結果、カラーよりも更にモノクロの方が雰囲気が出た。

単純に、素直に綺麗だと思った。



「…見つかったらきっと半殺しにされるんだろうな」

本当は手帳にでも入れて持ち歩こうと思ったのだけれど、失くすのが嫌で引き出しに仕舞い込
んだ。


そして同時にデジカメのデータもパソコンに取り込んだデータも全て消した。

唯一無二の一枚。

それでいい。

そうするのが相応しいのだと、時々取り出して眺めてはそう思う。



※でもふとしたことで、アキラにちらりと見られて、進藤が裸の生写真を持っていたと悶々と悩まれてしまいます。
もちろん本人ちら見だし自分だとは思っていません。2010.9.3 しょうこ