シアワセのなりかた
「なあ、幸せになるためにはどうしたらいいと思う?」
希に見る勝手人間の進藤は、会いに来るのも唐突なら質問の内容も唐突だ。
「随分深遠なことを考えているんだな」
「いいじゃん、おれだってたまにはマジメなことだって考えるんだよ」
それでおまえはどう思うんだと促されて仕方無く考える。
「―健康で居ること」
「…ああ」
「うちはお父さんが心臓があまり良くないからね、特にそう思う。それから犯罪
に手を染めない」
「…いきなり思いっきりハードだな」
苦笑したように進藤が笑うので睨んで黙らせる。
「人として基本だろう。誰かを傷つけたり、命を取るようなことをして幸せになん
かなれるわけが無い」
「それから?」
「それから? まだ足りないのか?」
考えてぼくは言った。
「嘘を―つかないことかな」
嘘は嘘を呼んで身動きが出来なくなることがある。だから出来るだけ正直に生
きる方が幸せになれると思うと、それはぼくが常日頃戒めのように思っている
ことだった。
「どんな嘘でも?」
「え?」
「例えば誰かを傷つけないようにつける嘘もダメなんかな」
「それは―」
ひたりと、進藤の手がぼくの腕を掴む。
「もし誰か泣かせても、たくさんの人を傷つけてもそれでも真正直に生きなけれ
ばいけないかな」
じっと見るその目の奥は深くて読めない。
「わからないけど―」
ざわり、胸の奥が怪しくざわめく。
「わからないけど―そういう嘘は」
いいんじゃないか? と気が付けばぼくの口は言っていた。
「だってきっと誰も理解することは出来ないだろうし」
「おまえ何言ってんの?」
「…たぶんキミがぼくに聞きたがっていたこと」
ぐいと腕が引かれて進藤の顔がぼくに近づく。あっと思う間もなく唇が重なって、
その温かさにぼくは切なくてなんだか泣きそうになった。
「…幸せになれっかな」
これからきっとたくさん嘘をつくことになるけれどと、進藤の言葉にぼくはうっすら
と微笑んだ。
「なれるよ、きっと」
少なくともぼくはキミと一緒なら、それだけでもう幸せだからと、見つめ合いそれ
からふっと笑って離れる。
「わかった。うん、じゃあまた来るから」
一瞬のつむじ風。
勝手に押しかけて来ては勝手に去る。
(本当にいつまでたっても読めないな…)
でも聞きたがっていたことだけはよくわかった。ぼくから欲しがっていた言葉も。
「なれるよ、大丈夫」
だからキミは少なくともぼくより長く生きなければいけないんだと、出て行ったドア
を見詰めながら、ぼくは走り去った進藤の面影にそっと独り言のように呟いたの
だった。
※とんこつ醤油味こってり風味全部乗せもいいけれど、あっさり鶏ガラ醤油風味
メンマチャーシュー乗せもいいと思うわけです。2008.11.11 しょうこ