※死にネタです。なので苦手、ダメージを受けそうという方は絶対に読まないでくださいね。(^^;






嘘つき




おれは嘘つきで。

ずっとずっと嘘つきで。

愛しているよと言いながら、でもあいつが本当に知りたいと願い続けたことを結局最後まで教えて
やらなかった。


いつか話すよ。

そう言って、知りたがりのあいつが必死で我慢しているのをわかっていても言わなかったのは―
好きだったから。


塔矢のことが好きで好きで好きで仕方が無かったから。







「ごめんな」

両の手で頬を挟んでそう言うと、塔矢は涙で濡れた顔で「謝るな」と言っておれを睨んだ。

「キミが何を謝っているのか知らないけれど、こんな時に…そんなふうにぼくに謝ったりしないで
くれ」


頼むからと、ああこいつすっかり痩せてやつれてしまったなと涙を指で拭ってやりながら思う。

いつもいつも強がりで、泣いた顔なんか絶対に見せたことも無かった塔矢が、今、おれの前で
子どものように泣きじゃくっている。


「…ごめんな、本当に」

耐えて堪えて、一体おれの知らない所でどれだけ泣いて来たんだろうと思ったら胸の奥が非道
く痛んだ。


「だから謝るな! 次に謝ったら本気で怒るぞ」

そう言いながらぼろぼろと涙をこぼす。



出会ってから一体どれくらい経つんだろう?

思い出せないくらい昔のようで、でもそれはほんのつい昨日のことのようで。

でも塔矢は変わらない。

頬を撫でながらそう思う。

大人になっても年を取ってもその真っ直ぐな瞳はそのままで、綺麗で強くて、とても優しいおれの
塔矢のままだと思う。



「どうしてそんなこと。謝るくらいならさっさと元気になって家に帰って来い」

「うん…出来たらそうしたいけど」

もしかしなくても、今度ばかりは無理かもしれないとそう思う。


結構無茶苦茶やって好き放題に生きて来て、でも体だけは丈夫だからと過信したツケがここで
出た。


病院に行けと塔矢にあれほど口うるさく言われたのに行かないでいた、そのことを今とても後悔
している。



「ごめんな」
「言うな!」
「それでもごめん。おれ…卑怯だからさ」


このまま言わないで逝くことにしたと言った瞬間、塔矢は驚いたように、涙に濡れた目を大きく
見開いた。


「馬―――」

そしてむせるように言葉が途切れる。

「何を馬鹿な…こと! そんなことぼくにとってはどうでもいいんだ!」

キミが居てくれれば。ぼくの側にキミが居てくれればそれだけでいいのだと、子どものように泣
く声が辛い。


「ぼくはキミが―好きだから―」

だからずっとキミと居たのだと。

「…それでも、おまえ、ずっと知りたがっていたじゃん」

知りたくて知りたくて、焦がれて忘れられなくて、おまえがおれを追いかけてくれるのが嬉しか
った。



「言わなければおまえはおれが居なくなっても、ずっとこのままおれのことを好きで居てくれる
かなって」


ガキの頃からそうだったようにおれだけを追いかけてくれるかなってと続ける言葉に首を振る。

「そんなもの関係無い! 言ったって言わなくたって!
「それでも、言わなければきっとおまえはおれを追い続けるんだ」


知ることが出来なかった秘密に焦がれて追いかけずにはいられないのだと。

「キミは…馬鹿だ」

人の心もわからない大馬鹿者だとすすり泣く。

「ぼくはずっと…いつだってずっと」

キミを追わずにはいられないのにと。

「秘密をキミが打ち明けてくれても、打ち明けてくれなかったとしても、それでもぼくはキミのこ
としか追いかけられない。キミが…キミのことが好きだから」


愛しているんだと、掠れる声で言われておれの目にも涙が滲んだ。

「…ごめんな」
「だから!」


頼むからお願いだ、もう謝ったりしないでくれと、繰り返す塔矢の声がふいにゆっくり遠くなっ
て行く。


指先から少しずつ体が冷えて行くのがよくわかって、視界も段々暗くなる。

もしも、死というものがこんなふうに静かで冷たいものであるならば、最後までおれは塔矢の
顔だけ見ていたい。


塔矢に触れて、塔矢の声だけを聞いて、そして塔矢を覚えていたい。

おれという形が無くなって、意識が霧のように消え去ってしまうのだとしても、だったら尚更覚
えていたい。


塔矢の顔を声をしぐさを。

おれの愛したその全てを。



「塔矢…」
「進藤―嫌だ」


悲鳴のような声が胸に刺さる。

ああ、こんなに泣かせてしまってごめんなと思う。

「塔矢…大好き」
「進藤っ」


本当におれは狡くて非道くて最低で。

でもこいつのお陰で幸せだったと心から思う。

おれとは逆に、決して嘘をつくことが出来ない、まっすぐで、馬鹿正直で、誰よりも綺麗な魂を
持ったこいつがおれを愛してくれたから、それだけで意味のある人生だったとそう思える。


「ありがとう」
「嫌だ、進藤っ。置いていかないで」


一人にしないでくれと泣き崩れる、こいつを置いて逝くことだけが今は辛い。

「本当に…ごめんな」

永遠にずっと愛しているからと、最後に呟いた声は塔矢の耳に届いただろうか?


「進藤っ!」


手にも足にも力が入らない。冷たくて、何もかもが冷たくて。

でも触れられているその部分だけが非道く温かかった。

(ああ…)


幸せだったな。


長くも無い、けれど決して短くも無い。でもひたすら満ちて幸せだった。

そう思いながら息を吐くと、おれはこの世に別れを告げるため、静かに両目を閉じたのだった。




※まず最初にごめんなさい。本当に本当にごめんなさい。この話は鎮魂花のヒカル版でしょうか。
これはあっちと違ってこれ一話だけですのでご安心を。


どちらがどちらを亡くしても痛々しくて痛すぎて考えられないのですが、ヒカルを亡くしたアキラの方が私は痛すぎて見られません。
ヒカルだって痛々しいし、見ていられないくらいだろうなと思うのですが、それでもヒカルの方がきっと強いんじゃないかなと。
佐為ちゃんを亡くしてその上万一アキラまで失ったらその打撃はもう計り知れないものだと思うのだけれど、それでもヒカルは生きていけるんじゃないかな。
でもアキラはヒカルを亡くしたら生きていけないんじゃないかと思います。きっと抜け殻になってしまう。


だったらこんな話書くなよというわけですが、なんか今日つらつらと考えていたらふいに浮かんでしまったものですみません。
何をつらつら考えていたかというとヒカルはSaiの正体をアキラに言うか否か。私は前はなんとなくいつかは言うんじゃないかなと思っていたのですが今は
最後まで言わないような気がします。言わないまま逝ってしまうんじゃないかな。秘密が無くなってもアキラはヒカルを大好きで愛し続けると思うのだけど、
それでも秘密を抱えたまま焦がれて追いかけて欲しいという気持ちがヒカルにはあるんじゃないかなって。
原作では「追って来い」って言ってますが結局アキラの方がヒカルを追いかけているような気がします。いや、ヒカルもアキラを追いかけたわけですが。
一生追い続けるのはアキラの方だと思います。


というわけでこういう話になりました。すみませんです。2010.12.6 しょうこ