融合
びくりと大きく脈打った後、熱いものがゆっくりと体の内側に広がって行く。
汗まみれになり、夢うつつのように抱き合って、背中に爪をたてながら迎えるその瞬間、
ぼくから吐き出された欲望は彼の引き締まった腹を汚し、彼のぼくへの欲望は、ぼくの
中へと吐き出される。
脱力して息を吐き、すがるように胸に顔をこすりつけて、その体の中の熱を感じる瞬間
が、ぼくはたまらない程好きだった。
「何?」
くすっと知らずに小さく笑っていたらしい。不思議そうに進藤がぼくの顎を指で持ち上げ
る。
「おれ何か失敗した? 笑っちゃう程良く無かった?」
「そんなわけないだろう」
少しだけ身を離し、彼の汚れた腹を撫でる。ああこんなにもぼくは彼に欲情していたのか
と、恥ずかしい気持ちもわき起こるが、それよりも圧倒的に愛したのだという満足が強く
体を支配する。
「じゃあ何で笑ってたん?」
「いや…男で良かったなって」
「何が?」
「男だからキミが吐き出した物を誰にも分け与えずにぼくだけの物に出来る」
女性ならばその行為は『子ども』という結晶に結びついて、それはそれで世間一般的な幸
せと呼ぶものになるのだろうけれど、ぼくは例え血を分けた子どもにでも彼の欲望を分け
与えるのは嫌だった。
ひとしずくたりとも逃すことなく全て自分の物にしたい。
「キミのは…今、ぼくの中で広がってそのまま内側から吸収されて行くんだ」
一滴残らず、全てがぼくの中に溶ける。
「それが嬉しいって思ったんだ」
全く呆れるくらいぼくはキミに大しては強欲なんだよと言ったら、進藤は少し黙って、それ
から「そうだな」と小さく笑った。
「おまえって見た目よりすごい強欲で心狭いよな」
でもおれだっておまえよりずっと心が狭い。強欲と独占欲の塊なんだと明るく言う。
そして白く汚れた己の腹を満足気に見詰めると指で掬ってぺろりと舐めた。
「ほら、これでおまえの欲もおれん中に溶けた」
おれだって、これを他の誰とも分けたくは無い。だからおれもまた自分が男で良かったと
思うよと、言ってぼくに口づけた。
「本当は、出来ることならおまえのこと頭からつま先まで欠片も残さず喰ってしまいたい」
「気が合うな。ぼくもだよ」
キミのこと髪の毛も歯も爪も残さず全て食べてしまいたい。そして全てを自分の物にした
いと思う。
「でもまあ…喰っちまったら、もう気持ちいいことも出来ないから」
その一歩手前ってヤツを何度も繰り返しヤッた方がいいよなと囁かれ、露骨な言いよう
だけれども、ぼくは素直に微笑んだ。
「ああ、その方がいい」
何度も何度も繰り返し、気が違いそうになる程求め合い、その果てに互いに欲望を吐き
出す方が何倍もいい。
(何倍も、何十倍も幸せだ)
本当に呆れるくらい欲深いぼく達は常に互いを求めずにはいられないから。
きっと一生他の誰にも、ほんの少しも分け与えずにお互いを食らい合いながら生きていく
のだと、たまらない程の幸福に満たされながら、ぼくは再び彼の放つぼくへの欲望の全て
を絞り取るために、ゆっくり足を開いたのだった。
※融合というか、強欲というか、でも他に欲しいものが無いのだから仕方がない。
それしか欲しく無いのだから。2010.5.24 しょうこ