ありがとう
通された進藤の部屋はあまりにも普通で、それが逆に不思議だった。
今まで外側からしか眺めたことが無かった家に入るのも初めてなら、更にプライベートな
彼の部屋に招かれるのも初めてで、一歩上がるのにもとても緊張したのに、階段の先に
あるその部屋は拍子抜けするくらいにごくごく普通で理不尽に腹立たしいような気がして
しまった。
「あ、そこらへん適当に座って」
入るなり窓を開けた彼はぼくを振り返ると何か持ってくると部屋を出かかった。
「親、夜になるまで帰って来ないからさ。ウーロン茶とかでいい?」
「いや、いいよ進藤。ぼくは何もいらない」
本当ならそんな無礼なことを言ったりはしないのだけれど、これ以上緊張が続くのが嫌で
ぼくは進藤を引き止めた。
「するなら…もう、しよう」
キミが嫌では無いならばとそう言ったら進藤は目を大きく見開いて、それから苦笑に近い
ような笑みでぼくに向かって笑った。
「嫌なわけないじゃん。おれが『お願い』したのにさ」
ひらりと風に舞うカレンダー。
9月の今日の場所にはマジックで小さく塔矢と書いてあってそれを見た途端、かっと頬が
熱くなった。
「わ、なんだよ。見るなよ」
ぼくが赤くなった理由に気がついて進藤もまた赤くなる。
「…じゃあ、マジでいいんだな?」
ぼくの前に立ち、少しためらうように言う。
「いいよ。いいって言ったじゃないか」
まともに見合うのが恥ずかしくて、ぼくは俯くとそう答えた。
9月20日。
彼の誕生日である今日、ぼくは彼に贈り物をしなければならない。
知り合ってからはもう長いけれど、恋人として付き合い始めてからは始めての誕生日で、だか
ら何が欲しいか尋ねた時、ぼくはそれを聞くのが少し怖いような気がした。
ぼくたちはもう普通にキスをするようになっていたし、その延長として互いの体に触れることも
していた。
だったら更にその先を彼は要求してくるのではないかとそう思ったからだ。
「何が欲しい? 進藤」
問いかけにじっと考えた彼は、かなり長い時間を無言で過ごしてからぽつりと言った。
「あのさ…」
言われたことは予想して待ち受けていたことにかなり近いことだったけれど、でも違った。
そんなことを言われるとは思いもしなかったのでぼくは非道く面食らった。
「嫌ならいいけど」
「どうしてキミは…」
「どうしてって…ずっとそう思ってたから」
そうしたいと思っていたんだと言われてぼくは恥ずかしさのあまり発熱したかのように全身火照っ
てしまったのだった。
「じゃあ…そっち座って」
静かな部屋の中、進藤はぼくの肩に手を置くとそのまま軽く押すようにしてベッドの縁にぼくを座ら
せた。
「ごめんな。変なこと頼んで」
「いや…キミが望むのだったら…」
言いながら顔が更に火照るのがわかった。
「ん。ありがと」
茹でたように真っ赤になったぼくに口づけると、進藤はそのまま跪くようにしてぼくの前に座った。
そして少し躊躇った後でぼくのズボンの前を開け、緊張のあまり縮こまったそれをそっと引き出
したのだった。
誕生日に進藤が望んだことは一つだった。
「おまえの舐めさせて」
聞き間違えかと思ったし、聞き間違えであって欲しいと思った。
「な…そんなことっ」
「どうしても嫌? でもおれずっとおまえのことそうやって愛したいって思ってた」
キスよりも深く、触れるよりも先へ行きたいのだと、でも一番最後に待っている所まではまだ早い
と思うから、その一つ前まで行かせて欲しいと、そう進藤は言ったのだった。
「おれがしようとするとおまえ嫌がるじゃん?」
「だってそんな恥ずかしいこと! それに汚い…し」
自分でもまじまじと見ることの無いそんな所を人に触れさせるのは嫌だった。ましてや恋している
相手にそんな場所を見られることはたまらなく嫌だったのだ。
「汚くなんかないよ。なんで汚いなんて言うんかな」
「汚いよ、汚い」
「でもおれ、おまえのに触りたいんだもん。触って口に入れて、キスするみたいに愛したい。おまえ
のことすごく気持ちよくしてやりたい」
「進藤…」
聞いているだけで恥ずかしくて死にそうだった。
「それが今一番おれが望んでることなんだけど、どうしてもダメかな」
おれの一番欲しいものをおまえはくれる?くれない? と重ねて尋ねられてもうぼくは縦に首を振る
しか出来なかった。
「本当に…本当にそんなことが望みなら」
キミの好きにしていいと、言ったら進藤は本当に嬉しそうな顔をしたのだった。
「ん、じゃあ誕生日はおれんちに来て。おれの部屋で…しよう」
うんと頷いた声はとても自分の声とは思えなかったし、現実とも思えなかったけれど、こうして彼の
部屋に来て、それが始まってしまうと否応も無しに現実なのだと思い知らされた。
「…怖い?」
緊張して小さくなっているそれを大事そうに手で包みながら進藤はぼくを見上げた。
「怖いよ。決まっているだろう」
「そっか」
そうだよな。おれも怖いよと言いながら進藤はゆっくりと体を沈めぼくのモノを口に含んだ。
「…あっ」
心持ち肌寒い空気に晒された後、いきなり温かい口の中に含まれて思わず声が漏れてしまった。
「は……あ…」
進藤の口の中は温かいというよりも熱いに近かったかもしれない。いつもキスでぼくを貪る柔らかい
舌が竿を撫でると、ぼくは一瞬で固く起ち上がってしまった。
「あ…やだ…恥ずかし…」
「なんで? かわいいのに」
俯いたまま進藤は笑って、ちゅと先端にキスをした。
それから再びゆっくりと包み込むと、彼は舌でぼくのモノを舐め始めたのだった。
「…………あ」
今まで感じたことの無いぞくぞくとした感覚が下から這い上がって来る。
悪寒に近いそれは、でも紙一重で不快では無く、むしろ快感に近いのが自分でもよくわかった。
「進藤…進藤…」
「ん。気持ちいい?」
跪いたまま、彼は少しも休まずにぼくのモノを愛し続けた。上へ下へ舌を細かく動かし続け、時には
含み、歯もたてた。
ちりりと微かな痛みを与えられるとそれはそののまま何倍もの快感になって体に響き、あげるつもり
はなくても声が漏れた。
「あっ……あっ…」
ぴちゃぴちゃと淫靡な音が部屋に響いて、それがまた背中に響く。
「塔矢…かわいい」
時たま顔を上げ、進藤が感に堪えかねたように言った。
「すげえかわいい。もっと気持ちよくなって」
「い…」
いやだと涙目で言うのを進藤は聞かない。むしろ舌の動きは激しくなってぼくは悲鳴をあげまいと
堪えるのに必死だった。
「いやだ…進藤……やっぱり…いや…」
乱れたくなんか無いのに、息も声も体もどんどん乱れていく。それがぼくは怖かった。
「いやだ…やめて…」
このままだとぼくはおかしくなってしまうと、気が狂ってしまうと言ったら進藤は一瞬動きを止めて、これ
以上無いくらい優しい声でこれ以上無いくらい非道いことを言った。
「いいよ、おかしくなって」
おれに愛されて狂ってよと、もっと乱れた所をおれに見せてと言われて本当に泣いてしまいそうになっ
た。
「いやだ…進藤…」
舐められた唾液か、それとも張りつめたぼくから溢れたものなのか、冷たい液体が根元から尻の方に
流れるのがわかる。
舐められている場所はもうどうなっているのかわからないくらいに熱くなっていて、もうとろけてしまいそ
うだった。
ほどなく達する。
そう遠くなくイッてしまうと思ったら嫌悪に近い程の恥ずかしさが遅い、ぼくは今更ながらこんな約束をし
たことを後悔した。
「すげ……塔矢…」
ぴちゃりと舐めながら進藤が目を上げる。
「すげえエロい」
エロくてかわいいと言われた瞬間、もうどうしようも無く押さえられない快感がうねりのように体に起った。
ベッドサイドに座っているのが耐えられなくて崩れるように彼の頭を抱きかかえるとぼくは大声で叫んで
しまった。
「進藤っ、進藤っ、進藤っ」
叫びながら快感が頂点に達するのをぼくは感じた。
もう押さえられない。
我慢することが出来ない。
せめて体を離してと思ったのにそれも叶わず、限界まで張りつめたそれは、進藤の口の中で弾けたの
だった。
「――――――――――あっ」
跳ねるように、何度も何度も体が波打ち、それからどっと力が抜ける。
ぼろぼろと涙がこぼれ、まだ残る快感の残り香に体を引くつかせながらぼくは泣き声を上げた。
「あっ…ああっ」
うと漏れるそれはまるで嗚咽のようだった。
「塔矢…」
伏したまま動けないぼくを腕で押し上げて、それから進藤は銜えていたぼくのモノから口を離した。
「ごめんな。大丈夫?」
ずるりと抜かれた時の感覚に目をつぶると、進藤は優しい声で言った。
「もっとゆっくりやればよかった?」
あの舌がぼくのモノを愛した。
あの口がぼくの放ったモノを飲み下したのだと思うだけでたまらなかった。
「もしかしておまえ、したことなかった?」
自分で抜いたりもしたこと無かったかと言われてぼくは頷くことしか出来なかった。
たまらなく、たまらなく恥ずかしかった。
「ごめんな、でもありがとう」
進藤は泣いているぼくを抱き寄せると耳元に囁いた。
「おれ、おまえの飲めて嬉しかった」
最後までさせてもらえてすごく幸せだったと言われて顔が熱くなる。
「…ば」
馬鹿と言いたいのに声が喉の奥に張り付いて出ない。
「すげえおいしかった、塔矢の味がした」
本当にすごく幸せだったよと言われて罵倒する気持ちが失せた。
「…塔矢?」
やっぱり嫌だった? 怒っちゃった?と心配そうに囁く声にぼくはしばらく答えられなくて、
でもやっと口を開いた。
「…おめでとう」
「え?」
「誕生日おめでとう」
キミが嬉しかったのならぼくも嬉しいと、それだけ辛うじて言うと進藤は一瞬黙り、それか
らたまらなく嬉しそうな声で「ありがとう」と言うと、ぼくを折れる程強く抱きしめたのだった。
つきあい始めの頃のエピソード。たったこれだけのことだって本人たちにとっては仰天同地の大騒動なんだよと
そういうお話しなんでした。本当は中学生の頃に制服でやって欲しい感じですがその頃はまだそんな感じじゃな
いからなあと16、7くらいのエピソード。アキラがしたこと無いってーのは嘘です。ものすごく嫌悪感とか罪悪感と
か抱くタイプなので死んでもそんなこと言えません。2005.9.30 しょうこ