涙
泣きながら歩いた。
進藤に恋人が出来たと嬉しそうに話されて、表面上はにっこりと良かったねと祝福したのに、
別れた後はもうどうにも出来なくなって空を仰ぎながら一人泣いた。
いつかはこんな日が来ると思っていた。
想うだけでは気持ちは通じず、いつの日にか誰かに奪われてしまうと思っていたけれど、いざ
その時が来てみたらぼくは全然耐えることが出来ず、その痛みに打ちのめされてしまった。
「キミは非道い」
キミは何も非道くない。
「こんなにもぼくはキミが好きなのに」
けれどそれを伝えることすらしなかった。
「ずっとずっと、キミだけを見つめて来たのに」
臆病で傷つくことが怖かった。
「進藤……キミは――」
想っていたぼくの気持ちすら知らずにどこの誰とも知らない誰かのものになってしまうのかと、
あんなに辛い思いをしたのは生まれて初めてのことだったかもしれない。
いつまでもそこにあると思っていた。
話さなくてもいつか伝わるものと思っていた。
キミもいつかぼくを好きになってくれるんじゃないか、それは決して独りよがりな想いでは無いの
ではないかと、つくづくとぼくは全てのことを甘く見ていたと思う。
「………進藤? ごめん、どうしても伝えたいことがあって」
ずっとずっと泣き通し、通り過ぎる人におかしな目で見られてもそれでも涙が止まらなくて、ぼくは
道の途中で座り込むとさっき別れた彼に電話したのだった。
『なに?明日じゃダメなことなん?』
「ダメだ、明日になったらきっともう気持ちがくじけて言うことが出来なくなるから」
気持ちが悪いと拒んでくれてもいいから聞いてくれと、そのままぼくは泣きながら彼に自分の気持
ちの全てを伝えた。
『――――――って、おまえ』
バっカじゃねえの? と随分長い間黙ってから返った彼の返事は冷たかった。
『今更そんな―――』
遅いんだよアホと、耳が痛くなるまで怒鳴られた。
『とにかく…これから行くからそこで待ってろ!』
よっく体に言い聞かせてやると、ここまで怒った進藤の声はぼくは聞いたことが無かった。
『逃げないで絶対待ってろよな』
「わかった……逃げないよ」
本当にごめんと、その後三十分もしないでやって来た彼は、座り込んだままのぼくを見つけると大きな
ため息をついて、それから引きずり上げるようにしてぼくを無理矢理立たせると、それからいきなり歩
き出したのだった。
「進藤……?」
「もう、しゃーないじゃん。このままおれ、相手んちに行って断ってくるから」
たぶんビンタのイッパツや二発じゃ済まないと思うから、それをちゃんと見て一生後悔しろと、最初言わ
れたことがわからなくて黙ったままで居ると、進藤に再び怒鳴られた。
「おまえのためにオンナと別れてくるって言ってんの!」
もうどうしてこう、人が諦めた瞬間にこんなこと言ってくるのかなあと怒り心頭らしい彼の指はぼくの腕に
食い込む程で痛くて痛くてたまらなかった。
「…なんかおまえ、おれに言うことないん?」
「ごめん」
他に何も言えなくてぼくは彼に謝った。
「本当に……ごめん」
「謝ったってしょうがないだろっ!」
それよりもっと他に言うことあるだろうと言われてわからなくて黙っていたら、また更に彼を怒らせてしま
った。
「ありがとう、だろ! それでもっておれのこと好きってもう一度ちゃんと言え」
おれもおまえのことずっとずっと大好きだったんだからと、振り返らず怒鳴り散らす彼の声は、でもぼくに
はどんな睦言よりも甘く響いた。
全部
全部
失ったと思った。
悲しくて
悲しくて
たまらなかった。
その全てが今思いがけず幸せに覆されて行く。
信じられない奇跡のような一瞬。
人として決して絶対に褒められたことでは無い。
最低と罵られ、蔑まれても仕方無い。
それでも―。
それでもぼくは最後の最後で彼を得た喜びに抗えず、引きずられ夜の道を歩きながら、うれし涙を
流したのだった。
※へたれアキラさんです(撲殺)。実際はアキラは死んでも言わなさそうな気がします。言わないまま胸に秘めて死ぬまで
秘密を抱いて生きていくんじゃないかなって。でももしかしたらふとしたきっかけで爆発してこんなふうに告白することもあるかもしれない。
あって欲しいと願って書きました。だって絶対ヒカルとアキラは両思いだと思うから。2007.4.27 しょうこ