花火
送り火を焚こうかと、夕方になってあいつが言った。
「んー…」
一人で焚いていた迎え火を見られた時に話そうかと思って、でも結局話さなかった。
そのために今だ会話がぎこちない。
「先にベランダに出てるから」
キミはライターだけ持って来てと言うので、言われた通りにして出てみたら塔矢は線
香を用意していなかった。
「あれ、忘れた? 持ってくるよおれ」
「いや、いいんだ」
お線香の方がいいかもしれないけれど、少し寂しいからねと言って差し出したのは
線香花火で、「これくらいならベランダでやっても怒られないだろう」と笑った。
「あー…うん」
薄暗い中、あいつとおれと一本ずつ線香花火に火をつけて、ぱちぱちと小さな火花
が散るのをながめる。
ぽとり、最後に火の玉が落ちて同時になんとなくおれ達は空を見上げた。
「喜んでくれたかな」
「え?」
「花火、その人は少しでも綺麗だと思ってくれたかな」
「…うん、きっと喜んだと思う」
こういうの、好きだったと思うからと言ったら塔矢は再び笑った。
「そうか。なら良かった」
何も聞かないくせにおれは塔矢が何もかも知っているのでは無いかと思う時が時々あ
る。
「来年は迎え火も花火にしようか?」
「…うん」
じゃあ用意しておくよ、その人の分もねと微笑む顔に不覚にも目尻に涙が滲んだ。
ごめん。
でもありがとう。
塔矢を好きになって良かったと改めて心から思いながらおれは一人そっと空を仰ぎ、見
えない佐為に「また来いよ」と心の中で囁いたのだった。
※覚え書きに書いたお盆の迎え火の話の続き。佐為ちゃんはきっと花火を喜ぶと思います。
お盆と言えば子どもの頃に住んでいた所ではどこの家でも迎え火を焚いていて、道端や玄関先にはきゅうりやなすで作った
馬や供え物がしてありました。東京ではそういうの見ないですね。そっとやっている人も居るのかな。 2007,8,16 しょうこ