ためらい
「ペアリングが欲しいなv」
クリスマスに何が欲しいかと尋ねたら、進藤は満面の笑みでそう言った。
「いかにも恋人同士〜って感じでいいじゃん? おれ、あれが欲しい」
「いいけど…でも買ってもぼくはしないよ」
二人でお揃いのリングなんかしたらバレバレで、一体何を言われるかわかったものでは
無いからだ。
「いいよ。おまえはしないでも」
一緒に同じリングを持ってるってだけでおれはシアワセだからと言われて、そこまで言うな
ら買ってやろうかと思った。
ところが色々と忙しく見に行くことが出来ず、当日になってやっとジュエリーショップに行った
ぼくは店の中のカップル率に驚いてしまったのだった。
みんな腕を組んだり指を絡め合いながら楽しそうにショーケースの中を覗いている。
「何かお探しですか?」
店員に声をかけられたけれど、ぼくは頭が逆上せたようになってしまって、すぐには口が開
けなかった。
「恋人への贈物でも?」
「ええ、ペアリングを―」
ペアリングを探していると言いかけて、はっと正気に返った。
こんな、男女のカップルばかり居る中で男物だけをペアで買ったりしたら悪目立ちしてしまう
では無いか。
「す、すみません。見に来ただけだったので」
しどろもどろに言い訳して、店員から逃げるように店を出る。
(買えない)
どう考えても彼とお揃いのペアリングなんて買うことは出来ないと、自分はなんて大それたこ
とを気安く約束してしまったのかと後悔した。
「…でも買って帰らなかったら進藤はがっかりするだろうな」
彼のことだから事情を話せば許してくれるとは思うけれど、でもきっと期待していた分、望みの
物を貰えなかったことに失望するに違い無い。
「…どうしよう」
うろうろと更に別の店も何件か覗き、どこも同じ状況なのを見て、ぼくは本当に途方に暮れてし
まった。
ここは恥も何もかも捨てて、彼との約束を守るためにペアリングを買うか、それとも何か別の物
で許してもらうか。
「でも…別の物って言っても…」
ペアリングと同じくらい喜んで貰えるものなんて想像もつかないとため息をついた時にそれが唐
突に目に入った。
頭を冷やそうと入った駅ビルの雑貨を置いてある店で、ぼくはペアの携帯ストラップを見つけた
のだった。
「こんなものが…あるんだ」
恋人と一緒に使うように、揃いのデザインや関連づけたデザインで作られた二つのストラップが
まるでペアリングのようにセットになって売っているのだ。
「これなら指輪を買うより恥ずかしくない…な」
(でもリングに比べたらすごく安い)
こんな安物で良いものかと、またぐるぐると悩んで、でも結局ぼくは携帯ストラップを買って駅ビ
ルを出たのだった。
「…で、約束のもんは買って来てくれたん?」
待ち合わせた場所に珍しく時間よりも早く来ていた彼は、やって来たぼくを見て、長らくお預け
をくらっていた犬のようにキラキラした顔でぼくを見た。
「いや…それが」
「なんだやっぱり買えなかったんだ」
「やっぱりって?」
「んー…おまえ恥ずかしくて買えないんじゃないかなって思っていたから」
だから半分覚悟していたからと言われて、そうか全てお見通しだったかと後ろめたい気持ち
になる。
「ごめん…」
「いいよ。で、代わりに何くれるん?」
まさかプレゼント無しじゃないよな??と尋ねられて、ぼくはさっき駅ビルで買った袋を突きつ
けるようにして彼に渡した。
「何?」
「プレゼント! 安いもので申し訳無いけれど」
開けてみてというぼくの言葉に素直に袋を開けた進藤は、ストラップを見て「わっ」と言った。
「気に入らなかったらごめん」
「なんで?これペアじゃん。おれと―お前のだよな」
「うん」
「それで、お揃いで携帯につけてくれるん?」
「そのつもりで買った」
うわあ、うわあ、だったらリングなんかよりもっと嬉しいと進藤は喜びで一杯の顔でぼくに抱
きついた。
「サンキュ。大事にする。おまえとお揃いで何か持つのって夢だったんだ、おれ」
こんな素敵なプレゼントをありがとうと、そのまま勢いでキスまでしかねない彼を慌ててぼく
は引きはがした。
「なんだよう、もっと感謝の抱擁をしたいのに」
「それは――また後で貰うから」
「後?」
きょとんとぼくの顔を見る進藤に、ぼくはこほんと空咳をしてから言った。
「今年は勇気が出なかったけれど、来年なら買えるかもしれない」
こんな間際じゃなく、混雑していない店だったらキミとのペアリングをきっと買えるはずだか
ら、来年のクリスマスにはきっとあげるよと、だから感謝の抱擁はその時に存分してくれと
言ったら進藤は目をまん丸に大きく見開いた。
「…進藤?」
「う…………わぁ………」
うわあ、すっげえシアワセーと進藤は押し退けるぼくを無理矢理強い力でかき抱いた。
「今年、こんな嬉しいプレゼントをくれたのに来年の約束までくれるなんて、おまえって―」
おまえって本当に最高と彼はぎゅっとぼくを抱きしめると、笑いながらぼくにキスの雨を降
らせた。
「最高っ、最高っ」
大好きと、人の目を気にして気が気では無いぼくはこんなことになるくらいだったら、カッ
プルになんか躊躇わずに、素直にペアリングを買えば良かったと、進藤の腕の中で藻掻
きながら自分の選択の間違いを心の底から後悔したのだった。
※えーと、すみません。今日駅ビルの宝石売り場に行ったらあんまりカップル率が高かったので
ついつい勢いで書いてしまいました。どうか何も考えずにさらっと読み流していただけたなら嬉しいです(^^;2007.12.24 しょうこ