※この話は「お初祭り」に投稿させていただいたものです。







情熱




してと言われたわけでは無かったが、人で溢れる会場の中から彼を連れ出
すと、ぼくはトイレの個室に押し込めて座らせ、それから黙ってズボンの前
を開けた。



「い、いいって! そんなことしなくても」


今まで一度もしたことが無い、ほのめかされても「嫌だ」と突っぱねていたそ
れをぼくがしようとしていることに進藤は驚き狼狽えた。



「いいって、本当にっ、おれ汗くさいし、今朝シャワーも浴びてないし」
「いいよ、そんなこと」



ぼくは別に気にしないと、元気の無い彼のモノを引っ張り出して口に含むと
「うっ」と彼は低く呻いた。



「なんで…今なんだよ! なんで、こんな時に」


ただでさえ惨めなのにおまえにそんなことされたら余計におれ惨めじゃんか
と、震える声で言われてぼくは返した。



「別にぼくは慰めるわけじゃない、興奮して、それがまだ冷めなくて、それを
キミで晴らしているんだ」


「嘘つけ、おまえ淡白なくせに」

「ぼくだって興奮する時はするし、欲情する時はするんだよ」と、ゆっくりと筋
をたどるように舐め上げるとびくりと彼の体は大きく震えた。


「嘘つきっ、塔矢の嘘つきっ!」
「嘘なんか―」



ついていないよと言った言葉は口に含んで舐めながら発したものだったの
でくぐもってしまった。



「キミだってわかるだろう、ああいう一戦は非道く体を刺激する。あの場でキ
ミにこうしていなかったことの方が不思議なくらいだ」



彼の泣き顔に欲情したのは半分は本当だった。

悔しさに顔を歪め、涙をこぼす彼の顔は初めて見たものだったので、ぼくは
体の芯から動揺したのだ。


そうか、彼はこんなふうに、こんな時に泣くのかと、それは感動に近い感情
だったかもしれない。


たまらない、どうにかしたいと突き動かされるように思ったのも本当だった。
けれどそれは言葉などでは足りない類のものだったのだ。



「………っ」

ゆっくりと硬さをもっていく、温かい彼のモノ。

自分の中に差し込まれる時はあんなにも熱く猛々しいのに、傷ついている時
はこんなにも頼りないものなのか。



「信じらんない…おまえ、淫乱、変態っ」

「そうだよ、ぼくは淫乱で変態だ」


キミに仕込まれてキミにだけ欲情するとんだ変態なんだよと、言って舌を大
きく使うと進藤は耐えかねたように声をあげた。



「あっ……はっ……」


くぅと最後に語尾が悔しそうになるのは、彼がまだ負けたことの悔しさを噛み
しめているせいで、それと共にぼくにこうされていることが更に余計に悔しい
んだろう。



「あっ…塔矢…っ、やめろって…」

「いやだ」

「祝賀会…の会場…から二人…もいなかったら気がつかれ…」

「負けた国の大将と副将がいなくたって誰も気にしないよ。社には抜けると
頼んであるし」



何よりきっと誰もがいないわけを察して無粋にも探しに来ることは無いだろう。


「ほんの1時間くらい、ぼくたちが居なくたって誰も気にしない。北斗通信シス
テムの人たちだって、古瀬村さんだって、誰も―」


「負け組に…用は無いって?」


言わないでいようとしたのに、それでも思わずこぼれてしまったという感じだっ
た。



「負け…た、おれたちに…誰も用は無いって言うのかよ」

「そんなこと言ってない」


ただ、だれも探しに来たりしないと言っているんだと、そっと根元の膨らみを
揉みしだきながら言ってやる。



「だからしばらくは二人きりだよ」

「それ…で?」

「…それだけだ」


狭い個室、二人入っているだけでもう充分狭いのに、屈み込み跪くようにして
舐めているぼくは床に膝をついてしまっている。



「塔――」

「なに?」

「悔し…」


こんなんなのに、それでも気持ちイイって感じるなんて情けなくて悔しいと、進
藤はぼくの頭を抱えるようにして言った。



「なんでおれ…こんな」

「美味しい」

「…え?」

「感情にダイレクトに反応するものなんだね、今、少しキミが溢れた」


キミの味がして美味しかったよと言うと、進藤はくっと苦笑のような息を吐いて
ぼくをバカと罵った。



「バカ塔矢、バカ、本当におまえバーカ」

「バカでもいいよ」


ぼくは別に、バカでも恥知らずでもなんでもいい。ただキミがその痛みから立
ち上がってくれたなら――。






ぺちゃぺちゃと、いつもされているように細かに舌を動かして彼を愛撫する。


「はっ…くっ…」


個室の中には彼の堪えるような呻きと息の音しか聞こえない。その息もぼく
の舌の動きに合わせてだんだんと早くなってきていて、到達が近い予感があ
った。



「あっ、塔矢っ…はっ」


あっ、イクっと彼が言った瞬間に口の中で彼のモノが大きく膨れた。

そしてとろけそうな程に熱くなったかと思うと、口の中で弾けたのだった。


(苦い)


ほろ苦く、痺れるようなそんな味が口に広がる。

初めて味わう彼自身の味は、切ないくらいに苦かった。

それは彼の胸の中に広がる、耐え難い程の痛みなのかもしれなかった。


「あっ、あっ……あっ…」


びくり、びくりと体を震わせ、でもその間中進藤はぼくの頭をしっかりと掴んで
押さえつけていた。


あんなにも嫌がり拒んだのに、その瞬間、ぼくが離れることを恐れるかのよ
うにしっかりと捕まえて離さなかったのだった。



「はっ…………ああっ」


体を二つに折り、切ない息をぼくの耳に落とした彼はそのまましばらく動かな
かった。


相変わらずぼくの髪を掴んだまま、離すことを忘れてしまったかのようだった。




「……………………最低」

随分たってからぽつりとつぶやくように言って、それから進藤は笑った。


「おれも、おまえもすげえ最低だ」


そして体を起こすと、伏せていたぼくの顔を上げさせた。


「…全部飲んだん?」


放たれたそれは全て喉の奥に飲み込んだので黙って頷くと、進藤はそっと
手を伸ばし、ぼくの唇の端を指で拭った。



「ちょっと…ついてた」


白くおれのが残っていたと言われてぼくの顔は赤く染まった。


「仕方ないだろう、拭うとかそんな考え無かったんだから」


一滴も残さずに飲み干してやろうとそのことだけで頭の中は一杯だった。

彼の痛みも苦しみも体の奥底にくすぶっている欲望も何一つ残さずに
ぼくが受け止めてやろうと、それだけしか考えていなかったから。



「おまえ…はじめてだったのに」


吐き出してくれて良かったのにと、そして照れるように笑う。


「上手かった。それでもって気持ち良かった」

「そうか、なら良かった」

「おかげで目がさめたって言うか、下がすっきりしたっていうか」


まあよくわかんないけどありがとうと、頬を挟まれてそれからキスをされた。


一度、二度、三度目は深く舌を差し込まれ、息が出来ないくらい長く唇を塞が
れた。



「ありがとう―――塔矢――それでもって」


ごめんと、言いながら彼は涙をこぼした。


「ごめん、ごめんな――――」


それはどれに対して言っていることなのかぼくにはわからなかった。

高永夏に勝てなかったことか、それともぼくにこんなことをさせたとそう思っ
ていることか、それともそのどちらもなのか。



「なんで? なんでキミが謝るんだ」


キミは立派だった、惚れ直したよと、そっと髪を撫でて囁くと、彼はぼくの手
に頬ずりして、それから再び涙をこぼした。



「ごめん―――塔矢」


愛してる――――と、繰り返し言われた時に堪えていたものが切れてぼくも
思わず泣いてしまった。



「謝るな、キミは―キミは本当に立派だった」


最高に強かったよと、言いながら涙が止らずに、ぼくたちは狭い個室の中で
抱き合った。




愛してる。

愛してる。

愛してる。

だから次はもっと二人で強くなろう―――と。


息苦しくなるほど酸素を消費しながら声の枯れるまで泣き続ける。




ぼくたちの初めての北斗杯はこうして終わったのだった。







お初祭り開催おめでとうございます♪

北斗杯の後、「終わりじゃない」とヒカルに声をかけ、待っていたアキラがとても好きです。
あの言葉通りに二人はこれから、もっともっと強くなって囲碁界を駆け上がって行くんだろうなと思います。


あの時のヒカルはアキラを見ていないけれど、アキラは常にヒカルを見ているんだなあとそれも嬉しかったりしました。
アキラにとってのヒカルはやはり特別だし、ヒカルにとってもアキラは特別なんだなと、そう改めて思ったシーンでもありました。



サイト内で「切な系百題」というものをやっていまして、これはそのお題の中の一つ「情熱」です。
他にも色々ありますのでよろしければそちらも見てみてください。


2006.10. しょうこ

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