ポーカーフェイス
したい。
されたい。
そんなこと、口が裂けても言えない塔矢がおれは好き。
人間なんだからそういう欲求があるのは当たり前で、おれもあいつも同じ男で、
でも好き合っているのだから衝動があってもおかしなことでは無いのに、塔矢は
自分の中にそういう欲求があることを認めるのを死ぬ程恥ずかしいことだと思っ
ているらしい。
だからそういう気分の時には痛々しい程に気持ちを張りつめて、いつも以上に無
愛想で素っ気ない態度になる。
言葉使いもぞんざいで、でも後ろ姿や首筋のほんの少し見える生の肌の部分に
ほんのりと漂う何かが、塔矢の中身を語ってしまう。
触れられたい。
触れたい。
ごくごく自然なそれが、どうしてそんなに恥ずかしいことなのか、おれにはどうして
もわからない。
抱かれることも、だからあいつには苦痛で、声をあげることは死にも値する。
でも、それでもおれに抱かれる時に塔矢は同時にたまらない程の幸せも確かに感
じているのだった。
「なあ、おまえなんかおれに言いたいことあるんじゃない?」
余所余所しい背中に話しかけてみる。
「別に? 特別キミと話したいことなんて無いよ」
つんけんと、でも決しておれと目を合わさない。
可愛いなあとおれが思っていることを知ったなら、きっと塔矢は本気でおれを殴る
だろう。
「そうか、じゃあおれの気のせいかな」
「そうだよ。ぼくは別にキミになんか何の用も無い」
「ふうん、それならおれ、今日は久しぶりに和谷ん所に遊びに行って来ようかなあ」
確か今日、夜通しみんなで飲むって言っていたんだよなと言ったら微かに塔矢の
肩が揺れた。
でも口調も表情も変わらない。
「いいんじゃないか? キミ、最近付き合いが悪いって言われているみたいだし」
「そうだな。うん、じゃあおれ行ってくるわ」
行かないでと、塔矢の指先も確かに揺れた。
ほんの僅か、揺れて、でも強靱な意志で押さえつけられる。
本当はもう耐えきれないくらい切羽詰まっているくせに、おれがいなかったとしても、
自分ですることなんて絶対に出来ないこともわかっているくせに、それでもおれを
引き止めない。
「…意地っぱり」
「何が?」
「おまえのそういう所」
「ぼくは別に―」
何も意地なんか張っていないとまだ言い張るのを無理矢理引き寄せて抱きしめると、
初めてその瞳が濡れたようになった。
そして誘うように開かれた唇に唇を重ねたら、もう塔矢の体は意志で保ってはいられ
なくなった。
「…キミは非道い」
抱かれた腕の中で悔しそうにその顔を両手で覆い、塔矢は泣いているような声でお
れに言う。
「キミと居るとぼくはどんどんみっともなく、情けなくなって行く」
恥ずかしい。
死ぬほど恥ずかしいと言うのにさすがに少し腹が立ったけれど、それでも体の強ばり
が解けていくのがわかるので逆なでするようなことは言わなかった。
「キミと居るとぼくはぼくで無くなってしまう」
「そんなこと無いだろ」
おれの中で乱れて啼いてるおまえだって、元からのおまえ自身なんだと言ったら思い
切り殴られた。
「だからキミが嫌いなんだ」
「好きなくせに」
「嫌いだよ」
大嫌いだと、憎々しげにそう言いながら、でも塔矢はおれからのキスを拒まなかった。
二度、三度、繰り返しているうちに肌全体が匂い立つようになってくる。
「嫌いだ…」
「本当におまえ、可愛く無いなあ」
でもそういう所がものすごく可愛いと、自分でも矛盾していると思う言葉を囁いて、そっと
張りつめた前に触ったら、塔矢は熱い息を吐いて、もう二度と抵抗しなくなったのだった。
※私の中のアキラは永久のツンデレさんです。ツンデレが死語を通り越して化石になったとしても永遠のツンデレです。
ツンデレ大好きv
そして、「この野郎いい加減素直になりやがれ」と思いつつ、そんな頑ななアキラが大好物のヒカルも矛盾しています。
世界一のお似合いカップルです。2008.9.29 しょうこ