スケッチ




夢の中のぼくは何かを一生懸命スケッチしていた。

膝の上に広げたスケッチブックに色鉛筆で、見ては描き、描きは見てを繰り返して
いた。


時に気にくわなくて破り捨て、また新たに書き直しを始めたりもした。


(あれは何を描いていたんだろう)

目が覚めて見るとおかしなもので、描いていた自分の姿は思い浮かぶのに何を描
いていたのかが全く思い出せなかった。


(風景かな…それとも人物だろうか?)

人物と思うとずきんと胸に重く痛みが走る。

「…じゃあ人物なんだな」

自分が痛みを覚えるような、そんな相手は一人しか居ないので、だったら自分は進
藤を描いていたのだろうとそう思った。


笑った顔、怒った顔、それとも泣いた顔を描いていたのだろうか?

(泣いた顔かもしれないな)

心の中にある、一度だけの彼の泣き顔は今でも胸に焼き付いているから。

「どうせ夢なら笑った顔を描いていればいいのに」

自分は本当に天の邪鬼だと苦笑してしまった。

そして。

そんなことも忘れた頃、ぼくは彼の二度目の涙を見ることになった。



「あのさ―」

おれ、好き。おまえのこと好き。ずっと前から好きだったと思い詰めた顔で打ち明けら
れてそれに「ぼくも」と答えた時、彼はいきなりぼくの目の前で綺麗な涙をこぼしたのだ
った。


「わっ、格好悪ぃ。見んなよ」

怒ったような顔で必死に涙を拭う。

でもその姿にぼくは胸が痛くなる程に深い喜びを覚えたのだった。

ぼくを好きだと言った彼が、ぼくも好きだと言ったら泣いた。

泣くほどにぼくを好きで居てくれたのだと思ったら、そのことが痛いくらいに嬉しかった
のだ。


(ああ…)

今の彼を絶対に忘れないで覚えておこうと、必死に瞼の裏に焼き付けようとしながら見
詰めていて思い出す。


「あの時ぼくは」

ぼくはこの彼の姿を一生懸命写し取ろうとしていたのだと―――。




※でもその後、ちらりとでもアキラが言いかけると逆ギレられます。「あんなにぼくは嬉しかったのにどうして進藤は怒るんだろう?」
男心のわからない天然ちゃんは率直に尋ねて更にキレられるかもしれません。
2008.11.15 しょうこ