くるい咲き



「責任をとってもらおうかな」

蒸し暑い空気の中、額に浮いた汗を手で拭って塔矢が言った。

「何の? おれが早碁でもう二勝してること? それとも昨日念入りにおまえのこと可愛がったこと?」
「どっちでも無い、このたまらない暑さについてだ」


ムッとした顔を隠しもせず言われて、でも理不尽だと思う。

「そんなの、夏暑いのはおれのせいじゃないし」
「キミのせいだよ」


普段あまり暑い涼しいを顔に出さない。

汗をかくのもほとんど見たことが無いようなこいつが汗を拭っているのだから、確かに相当暑いのだ
ろう。


でもここは塔矢の家だし、エアコンをつけないのも塔矢がエアコンが嫌いだからだし、どれもおれのせ
いではない。


「じゃあなんだよ。夏暑いのも、蝉がうるさいのも全部おれのせいってことかよ」

塔矢の理不尽はいつものことだけれど、これはあまりにあんまりだと口を尖らせて言ってみたら、塔矢
はちらりとおれを見て、不快そうに溜息をついて言い放った。


「ああそうだね。夏暑いのも、蝉がうるさいのも、早碁で二敗しているのも、夕立が来そうなのも、ぼくが
こんなにキミを好きなのも全部、キミが悪い」
「ああそうですか、どうせおれは――」


怒鳴りかけて聞き流した塔矢の言葉の最後の方を思う。

「おまえ今、なんかつるっと変なこと言わなかった?」
「別に」


不機嫌そのままに塔矢は言う。

「キミがつまらないことを気にするのも、夕立が降りそうで降らないのも、ぼくがキミを好きなのも全部キ
ミのせいだって言っただけだよ」
「――――って、おまえそれどういうプレイ?」


たまらずぶっと吹きだした。

塔矢は相変わらず不快そうで、もしかしたらこれは本当に暑さのあまり知らずに本音を漏らしてしまっ
ているのかもしれないが、せっかくのお言葉なので水を差さないことにした。


「プレイも何もキミが悪いから悪いって言っている!」
「あー、うん。はいはい解った」


世の中のこと全て、おれがおまえを大好きなのも含めて、とにかくおれが悪いですよと返事して、おれ
は塔矢の暑さを少しでも冷ましてやるべく、手近にあった団扇を取ると、ぱたぱたと扇いでやったのだ
った。



※暑っっっっいですねぇ。こんなに暑いと若先生も壊れるよということで。2011.8.24  しょうこ