熱雷
「繁殖のためだけに存在するのだとしたら、こんなつまらないことは無いよね」
ぽつりとした唐突なアキラの言葉にヒカルが動きを止める。
「何? いきなり」
「別に、ただ…今ふって思ったから」
こうしてキミがぼくに触れて、ぼくがキミに触れる。それを意味が無いものと否定されるのは悔しいなと。
「おまえの話って、なんか一々小難しいな」
小さく笑ってヒカルが言う。
「こーゆー時には、もっと他に思ったりしたりすることがあるんじゃねーの?」
再び腰を動かし始めながらの言葉にアキラが薄い微笑みで返す。
「悪いね。ぼくはキミほど単純に出来ていないんだ。だからついつまらない事を考えてしまう」
この世の全ての生命が子孫を残すために存在していて、生殖行為はそのためにあって、なのにそれら
と全く無関係の行為を繰り返す。
「そういうのって罪深いことだと思わないか?」
俯く顔のすぐ真下、自分を見上げるアキラの顔が微かに切ない色を浮かべているのがヒカルには辛い。
「なんだよ、また誰かになんか言われたん? それとも塔矢先生とか―」
「何も言われないよ。うちはもう諦めてしまったみたいだから。ただ」
「ただ?」
「なんでも無い」
アキラがこうして口を噤むのは、大なり小なり何か揺さぶられるようなことがあった時で、ヒカルほど割り
切れていないアキラは自分を嫌悪するという形で感情を収めようとする。
「まったく」
そのまましてしまおうかと激しく動きかけ、でもぴたりと止まると、ヒカルはアキラの眉間にそっと口づけ
た。
「手…出して」
「え?」
「いいから、どっちでもいいから手ぇ出してよ」
言いながらアキラの目の前にかざすように出したヒカルの手は、指の一本一本が白いもので汚れてい
る。
「いや…だって汚れているから」
「見りゃわかんだろ。おれもだよ。解ってるから、いいから出して」
恥じるように目を逸らすアキラに有無を言わさぬ口調でヒカルは言った。
「どうして?」
「いいから。おまえは一々本当にうるさすぎ!」
そして渋々とアキラが差し出した手をちょうど二人の顔の真ん中くらいの位置で、ぎゅっと握りしめる。
くちゅっと互いの指についた液がぬめった音をたてたけれどヒカルは全く構わなかった。
「好きだから」
「え?」
「意味なんかおれは別にあっても無くてもいいと思う。気持ちよければそれでいいし、好きだから、ヤリ
タイからってそれだけで別にいいと思ってる。でも、おまえがどうしても気になるって言うなら」
好きだからでいいんじゃないかとヒカルは言って小さく笑った。
「おまえが好き、大好きで愛してるから。だから子孫も何も残せなくても、おれはおまえとこうしたい」
それじゃおまえはダメなのか? と更にぎゅっと指を深く握りこまれてアキラの頬が赤く染まった。
「ダメじゃ…無い」
うん、ダメじゃ無いよと、そしてヒカルに笑い返した。
「ぼくもキミが好き。好きで、大好きで愛しているから例え何の意味も無くてもこうしたい」
「意味が無くなんか無いって言ってるんじゃん」
愛し合っているからだよ――――。
深く、深く、想いをこめてヒカルがアキラの耳元に囁く。
「解った。ぼくが悪かった」
愛し合っているからで、それでなんの異存も無いよと、性懲りも無くアキラが固い物言いで言うのにヒ
カルは笑い、それからふいに愛しさの衝動に突き動かされたかのように、握り合った手に口づけをし
たのだった。
※もしかしたら万一、不快に思われる方がいるやも。その場合はゴメンナサイ。
でも繁殖のためだけに在るとしたらそれはなんてつまらないことだと私も思う。2011.9.29 しょうこ