クリムゾン




首筋に紅が散る。



「あれ? アキラ、そこどうしたの?」

久しぶりに家を訪ねて来た芦原さんが、ぼくをしげしげと見詰めてからそう言った。

「それって何ですか?」

わからずに聞き返すと「それだよ、それ」と、ぐいと襟首を引かれた。

「赤くなってるじゃない。虫にでも刺された?」
「…ああ」


指で撫でた所には心当たりがある。

夕べきつく抱きしめられて、肌が破れるかと思う程強く吸われた。その痕だと思った。

「そろそろ温かくなって来たからねぇ、窓を開ける時はちゃんと網戸にしないとダメだよ」
「そうそう、質の悪い虫に食われると後が大変だぜ?」


しれっと口を挟んだのは進藤で、まるで自分の家であるかのように勝手知ったるなんとかで、
煎れて来た茶を芦原さんの前に置く。


「進藤くんは刺されなかったの?」
「おれ? おれは刺されなかったかな」


刺して貰っても全然構わないんだけど、これが結構つれない虫でと、悪びれない顔でにっこ
りと笑う。


「おれ、嫌われてんのかな、虫に」
「さあ、どうだろうね」


非道く際どい会話だと、胸の内で思いながら顔には出さず、ぼくもまた自分の前に置かれた
茶に手を伸ばした。


茶によって湯の温度を変えるとかそういうことを全く考えもしない、彼のいれる茶はいつでも
熱い。


「熱すぎだ…」
「まあ、そう言わないで。美味しいじゃない」


フォローする芦原さんに苦笑を返しながら、ぼくは小さく溜息をついた。

唇を焦がす程熱い茶は夕べのキスを思い出させる。

(そうか、それで灼けたのか)

無意識に再びそっと首筋を撫でたら進藤がじっとぼくを見て、それからいかにも嬉しそうにニッ
と笑った。


(ろくでも無い)

本当に彼はろくでも無い質の悪い『虫』で、その『虫』に刺されるまま、拒まないぼくもまたろくで
も無いとそう思った。


「なあ…」

彼が言いかけるのに釘を刺す。

「あまり調子に乗るようなら、今度は刺される前に叩きつぶすかもしれない」
「怖いねえ」


芦原さんだけが何も知らずにのんびりと一人微笑んで居る。

ぼくは彼を睨みつけると首筋から手をそっと離し、それからゆっくりと時間をかけて、熱すぎる
茶を飲んだのだった。




※そんなような色かなと。でもちょっと明るすぎるかな?
2010.3.28 しょうこ