運命線



「おまえの手相、みてやろうか?」


少し前、酒の席で覚えた技を使ってみようかと塔矢に声をかけて見る。


「手相? キミそんなものみられるのか?」
「うん、ちょっと囓ったことがあるからさ」


要は気になる相手と食事や酒を飲みに行った時に手相をみてやると言う口実で手を握れると、
ただそれだけのことなのだけれど塔矢は素直に手を出した。



「えーと、おまえの手相は…」


もっともらしい話を頭の中で考えていると、目の前の塔矢がふっと笑った。


「桑原先生にでも聞いたのか?」

「え?」

「それとも緒方さんかな」


まったく大人はろくなことを教えないよねと、おれに手を握られたまま訳知り顔でおれを見る。


「な…なんだよ」

「言われたんだろう? 好きな相手を口説く時は手相をみると言って手を握って適当なことを言え
ばいいって」


「おまえ…知って…」


かーっと顔が赤く染まる。


「ぼくはキミよりも年配の方達と接する機会が多かったからね。お酒の席では色々とよろしく無い
ことを教わった」



この『手相』もその一つだよと言われておれはもう二の句が継げなかった。


「でも、それをそのまま実戦するなんてキミも意外に素直で可愛い所があるんだな」

「おまえは意外にすれてて、可愛く無いよ」


悪さを見つかったガキのようにふてくされて言ったら塔矢は笑った。


「怒ったのか? 悪かった。でも別にキミをバカにしたわけじゃないよ」


むしろそれを他の人に使わずにぼくに使ってくれて嬉しかったと言われて更に顔が火照るような気
がした。



「どうせおれは―」

「実はぼくも手相が読めるんだ」

「――へ?」


唐突な塔矢の言葉に呆気にとられる。


「これが生命線で、これが頭脳線。こっちは結婚線で、これは太陽線というものだ」

「へえ…」

「そしてこの掌の真ん中を通っているのが運命線でね」


ぼくの運命線には『進藤ヒカル』と書いてあると言われて、つい引き込まれて話を聞いてしまってい
たおれは「へー」と普通に返事をしてしまった。



「って……ええっ?」

「聞こえ無かったか? ぼくの運命線には『進藤ヒカル』と書いてある。ぼくの運命、未来は全てキミ
と共にあるみたいだ」



それは、酒の席で桑原先生に教わった口説き方そのままだった。女を口説く時はこうやって言えば
相手は大抵自分になびくと。


けれどそれをそっくりそのまま塔矢にされるとは思わなかった。


「おまえ―」


もう恥ずかしくてまともに塔矢の顔を見ることも出来ない。


「キミの手も見せてくれないか? 今度はキミの手相も観てあげるよ」


そんなおれの態度も気にせずに、塔矢はおれの手を握ると掌を広げさせて、ゆっくりと指でおれの手
相をなぞりはじめた。



「…これがキミの生命線。キミ、結構長生きをしそうだね。これがキミの頭脳線。まあまあという所かな。
結婚線は良いって出ている。そしてこれが運命線。キミの運命線には―」



「塔矢アキラって書いてあるんだろう!」


たまらずに真っ赤な顔で叫んだら、目の前の塔矢は少し驚いた顔をした後で、その表情をゆっくりと満面
の笑みに変えて言ったのだった。


「―そうだったらいいなと思っているよ」



※アキラはろくでも無いことを小さい頃から悪い大人達に吹き込まれていると思うんですよね。でも実践はしない。
くだらないなと思っていたのがヒカルにされてみたらすっっっごく嬉しくてちょっとびっくりと、そういう話です。それではもうちょっとしたら行ってきまーす。
2014.3.16 しょうこ