からっぽ
始める前は随分悩み苦しんだはずなのに、終わってみると非道く呆気無いような気がした。
お互いに上り詰めて果てた後、アキラは呆然としたように布団の上に座り込んだ。
ヒカルは後ろで伏したように倒れていて、放り出された指がアキラの方に向いている。
あの指が自分に触れた。
そう思った瞬間にカッと体が熱くなり、アキラはもう二度とヒカルを見ることが出来なくなってしまった。
(恥ずかしい)
随分と乱れてしまったような気がする。
最後まで理性を保っていたいと願っていたのにかなり早々に手放してしまったし、情けなく喘ぎ声をあげてしまった。
そればかりか有り得ないような言葉を口にしたり、悶死しそうなことをヒカルにねだったりしてしまったと思う。
(きっと進藤は幻滅した)
ヒカルが自分をどう思ったかは解らないが、はしたないと思ったことは確かだ。
そうでなくても異性では無い自分の体にヒカルががっかりしたのではないかと思うと絶望感が満ちて来る。
(こんなことなら)
しなければ良かったとアキラが後悔の海に流されている時、背後から腕が回された。
「…進藤」
ぎゅっと背中から抱きしめられてアキラは身を縮こませた。
「おれ―」
どうしよう、何を言われるのだろうかと逃げ腰になるアキラの耳にかすれたような声が響いた。
「おれ、すごく格好悪かった」
え、と思う。
ヒカルはアキラの背に額を押しつけてどうやら俯いているようだった。
「もっとちゃんと出来るつもりだったのに途中で色々ブッ飛んじゃったし、気持ち良くてすげえ声出しちゃったし、な
んかもう、とにかくもうみっともなかった」
お前に格好悪い所見せるの一番嫌だったのに最低最悪に格好悪かった。もう恥ずかしくておまえの顔が見られな
いと。
「…しない方が良かったんじゃないか」
おれにがっかりしただろうと言われてアキラは食いしばっていた口元が緩むのを覚えた。
「まさか」
ヒカルも自分と同じことを考えていた。そのことがアキラを安堵させ、窒息しそうな程の自己嫌悪を吹き飛ばした。
入れ替わるように体中に満ちたのは相手への愛情で、アキラは気がついたら自分を抱きしめるヒカルの腕にそっ
と自分の手を置いていた。
「して…良かったよ」
ぽつりと呟くようにヒカルに返す。
「全然格好悪くなんかなかった」
キミ、格好良かったよと囁くと、抱きしめる腕にぎゅっと力が込められた。
「…大好き」
塔矢大好きと繰り返すヒカルは、それでもまだアキラの背に顔を埋めたままでいる。
「ぼくも…好き」
キミが大好きだと返しながら、アキラは生まれて初めて知る、愛し愛される幸福を泣き出したいような気持ちで噛
みしめたのだった。
※虚脱してからっぽになった体に代わりに愛情が満たされたと、そんな風に読んでいただけたら嬉しいです。
2015.2.7 しょうこ