レプリカ
ある日ふと、思いついて聞いてみた。
「おまえさあ、もしおれが死んだらどーすんの?」
目の前でじっと碁盤を睨み、次の手を考えていた塔矢はおれの声に顔を上げると非道く驚いた顔をした。
「キミ…死ぬのか?」
考えつきもしなかったというような表情に思わず苦笑する。
「そりゃあ、おれも人間だし、生きてるんだからいつか死ぬだろ」
「そうか…そうなんだ」
「おまえだってそうだろ。で、おまえ滅茶苦茶おれに執着してるけど、もしいなくなったらどうすんだよ」
顔を見るなり打ちたがる。おれと言うより、おれの碁を欲しがる塔矢へのささやかな当てこすりも含んで
いた。
「キミがいない世界なんて考えられないけれど…そうだね」
一旦言葉を切り、考え込んだ後で塔矢は言った。
「科学の進化に期待しようかな」
「は?」
予想外の言葉に目を丸くする。
「なにそれ」
「普通に考えてぼく達の寿命はまだ五、六十年はあると思うから、その間に人間のクローン化が現実に
なることに賭けたいかな」
「おれのクローンでも作るってこと?」
「うん。キミがもし死んでしまったらキミのクローンを作ると思うよ」
「でもそれはおれと同じものかもしんないけど、おれじゃないぜ?」
理数系の脳は解らないと思いつつ、ため息まじりに言う。もし今のおれじゃなくても、おれの碁と打てれ
ばいいと思うならおれにとってはとてつもない悲報だ。
「解ってる。だからその時にはぼくのクローンも作ろうと思っているんだ」
「おまえの? なんで」
「幾らキミとそっくりでもキミじゃなければぼくには意味が無い。でもキミのいない世界には耐えられない
から、ぼくのクローンも作って、キミと一緒に生きて行くようにするよ」
「おまえは? おまえ自身はどーすんだよ」
「死ぬよ」
あっさりと言われて凍り付く。
「キミがいないのにぼくが生きている意味は無いからね。だから死ぬ。そしてぼくとキミのクローンに生
き続けて貰うんだ」
「クローンだって寿命を待たずに死ぬかもしれないぜ?」
「そうしたらきっとぼくのクローンがまたキミのクローンを作るだろうと思うよ」
だってぼくと同じものなんだからねと言われてぞっとした。
「まあでも…実際には生きているうちにそんな技術は完成しないだろうと思う。だからキミには健康に留
意してなるべく長生きしてもらいたいな」
つまらないトラブルには決して巻き込まれるなよと念を押されて気圧されて頷く。
「お、おう」
「でも本当は実現したらいいなとも思うよ。永遠にキミと一緒に居られるんだから」
そう言ってぱちりと絶妙の場所に打ち下ろした。
どうだと言わんばかりの顔にムッと腹を立てながら、おれは塔矢を心底恐ろしいと思い、同時に泣きたく
なる程愛おしいとも思ったのだった。
※これも似たような話を以前書いた記憶があります。が、書きたくなった時が書きたい時なのでご容赦下さい。
まあ結局の所アキラも碁も共に過ごした時間も含めたヒカル全部を好きなので今のヒカルじゃなきゃ意味が無いということです。
そして誰もが気になるヒカルのクローン(若しくは本体)よりもアキラの方が先に死んでしまったらの場合、アキラは自分が
ヒカルのいない世界でどうするかが大問題なのでヒカルの方の問題は全く考えていません。ヒカルにとっては非道い話です。
2015.3.8 しょうこ