死に至る病




ものも言わずに倒れた。


「わかったよ。おれがいなくなればいいんだろう! やる事なす事そんなに全部気にいらねーんだったら、望み通りおまえの前から消えてやるっ!」


ヒートアップする喧嘩の最中、おれが叩きつけるように怒鳴ったら、塔矢は一言も返さずにその場に静かに頽れたのだった。

幸いすぐに目を開いたけれど、それまでの数分間おれは生きた心地がしなかった。

床に倒れた塔矢の顔は血の気が無く、紙のように真っ白だったからだ。


「塔矢」


思わずぎゅっと抱きしめると、塔矢は苦しそうな声を上げた。


「……進…藤?」

「おまえ、倒れるから! いきなり倒れるからびっくりしたじゃないか!」


おれの声はたぶん半泣きのようになっていたと思う。さっきまで腹を立てていたことなんか消し飛んで、失うのではないかという恐怖で一杯になっていた。


「……ごめん」

「いいよ、謝んないで! おれが悪かったよ。非道いこと言って本当に悪かった」


倒れた瞬間の塔矢の顔をおれは実は見ていない。それ程自分の怒りに囚われていたのだ。

本当の所、顔を見るのも嫌だと思っていたのかもしれない。

でも塔矢の頽れる様は、はっきりと見た。

まるで砂で出来た人形が端から壊れて行くように、塔矢は目の前で崩れ落ちた。それが目の中に焼き付いていつまでも消えない。


「おれ、本気で言ったんじゃ無いから! ごめん! 本当にごめんっ!」


抱きかかえるおれの背に塔矢がゆっくりと手を伸ばす。


「キミが……」

「うん」

「キミがぼくを嫌いになっても仕方が無い」

「嫌いになんかなってないって!」


悲鳴のように言うと、塔矢は微苦笑して首を横に振った。


「キミがぼくを嫌いになっても構わないんだ。だってキミも知っているように、ぼくは非道く扱いづらいし可愛げも無い。いつ愛想を尽かされても仕方無いと思っている。でもそれとキミがいなくなるのは別だから」

「別?」

「うん」


一瞬、塔矢は遠くを見るような目をした。


「キミが居ないのだったら、この世界にぼくが居る意味は無い」

「塔…」

「キミがどこかに消えるなら、ぼくも消えて無くなるよ」

それはとても静かで淡々としていて、いかにも単純な事実を述べているという風だった。

それだけにおれはぞっとしてしまったのだった。

崩れ落ちる瞬間の塔矢の姿がまざまざと蘇って来たからだ。


「ダメっ! そんなのダメだ! なんでそんなこと言うんだよ」


儚い。

いつだって凜として、誰よりも強い。

そんな塔矢がおれのことでこんなにも脆く、儚くなるということが信じられなくて切なかった。


「おれなんかが居ても居なくても、おまえは居なくなったりしちゃダメなんだって!」

「それでも―」


キミはぼくの全てだからと、にっこりと微笑まれておれは思わず絶句した。


「そんな……大したもんじゃないんだ」


おれとおまえとじゃ比べものにならない。


「おれなんか……おまえに比べたら、半分も十分の一も意味も価値も無いんだから」


言い聞かせるように繰り返すおれを見つめながら、塔矢は黙ったままゆっくりと顔を横に振った。

世界中の誰よりもおまえが大事。

おれこそ、おまえが居ない世界に存在なんてしたくない。


(だっておれにとっても、おまえが世界の全てなんだから)


たったそれだけのことがどうしても伝わらない。

解って貰えないもどかしさに、おれは塔矢の体を改めて強く抱きしめると静かに涙をこぼしたのだった。


※アキラはとても強い人だと思います。でも強いのに変な所で脆いというか、変に潔い所があるような気もしています。
ヒカルはアキラを大事にするためにもぜひ自分を大事にして欲しいし、心にも無いことは言って欲しく無いと思います。
2015.9.5 しょうこ