あいしてる
何気なく、少し離れた所にある物に手を伸ばした瞬間、みしっと体中に軋んだような痛みが走った。
「痛っ―」
腰や足、背中の筋や肩に腕と、ありとあらゆる所が痛い。
なるほど、ああいうことは普段使わない筋肉を使うものなのだなとアキラは思った。
(大体、あんなふうに持ち上げられたり、あんな角度で足を開いたりしないものだし)
そして我に返って赤面する。
(信じられない)
あんなはしたない淫らなこと。
なのにそれを自分は今喜びとして思い返している。
したこと、されたこと、言ったこと、言われたこと。その全てがまるで夢のようで、けれど動くたびに軋む
体がそれは夢では無かったのだと改めて知らせる。
「進藤もこんなふうに体が痛んでいるんだろうか?」
自分より辛いはずは無いと思いつつ、けれどする側がどうなのかはわからないので、やはり辛いので
は無いかと思ったりする。
「とにかく…次にする時はもう少し抑えてしないと…」
衝動に突き動かされるように、息が切れ、力尽きて倒れるまで重なり続けるということは止めなければ
いけないと考えて、でも無理だなと同時に思う。
「…そんなことが出来ていたら最初からきっとしていない」
(キミも、そしてぼくも―)
少し休んで体がもう少し楽に動くようになったら薬局へ行こうとアキラは思った。
「家事はもう今日は無理だから…」
何か簡単に食べられるものを買って来て、今日はそれで我慢して貰おうとそう思う。
『行ってくるけど、でも絶対待ってて!』
そう言って朝、慌ただしく出かけて行ったヒカルのために。
(眠い)
あんなに眠ったのにまだ眠いと思いながらアキラはけだるくソファに座った。
だらしなく体を伸ばしてうとうととしかけ、けれど気が付いてサイドテーブルに手を伸ばす。
手に持ったのは携帯で、あくびを噛み殺しながらメールを打つと耐えきれずそのまま目を閉じた。
送ったメールはほんの一言。
『痛い』にしようかと思ったけれどそれではあまりにもあんまりなので、何よりも相手が喜びそうな言
葉にした。
「愛してる―」
キミを心から愛しているよと呟いて、アキラはゆっくり微笑むと、そのまま幸福な眠りに落ちたのだ
った。
※今日は夏の祭典ですね。こんなものではとても代わりにはなりませんが、行きたくても行けない皆様のために。
2010.8.14 しょうこ