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「ねぇねぇ、凄いでしょ。ここ」 総司のはしゃぐ声が響く。 周囲を埋め尽くさんばかりに桜が植わっているここへ、歳三を連れてきたのは総司だ。 仕事仕事と言って書類と格闘し、部屋に篭りっきりの歳三を、体に悪いと引っ張り出してきたのだ。 新撰組の鬼の副長相手に、そんな芸当が出来るのは、後にも先にもこの若者ぐらいのものだった。 だが、花の咲き具合はまだ二・三分といったところ。 ちらほらと花が咲き始めて入るがまだまだ蕾で、ようやく綻んできたばかりだ。 だから、花見の見頃にはほど遠いのだが、そんなことを言っていたら、いつ歳三を引っ張り出せるか分かったものじゃない。 そうなったら、あっと言う間に花も散ってしまうだろうから、早いことを承知で無理やり引っ張り出してきたのだ。 そんな時期ではあったが、それでも多くの桜の木があり、そのどれもが濃い紅色の蕾をつけていたから、周囲は薄紅色に染まって、あたかも花が咲いているようだ。 「これが全部咲いたら、見事でしょうねぇ」 言外に、本当はその頃もう一度来たいのだと言う総司に、 「ああ、……」 と、歳三は答え、他愛無い総司のおねだりに、多分望みをかなえてやるだろう己に苦笑した。 こちらから山裾まで続く桜を、頬を紅潮させて眺める総司の姿を桜と共に愛でながら、歳三は総司を咲き初める花のようだと思っていた。 幾度抱けども初々しさを失わず、けれど徐々に花開こうとしていく。 いつしか、満開の花を咲かせるだろうか。 それは、楽しみなようであり、残念なようであり。 ちょっと複雑な心境へと歳三を追い込む。 だが、どちらにせよ、それを愛でるのは己だけでありたいと願うのは、身勝手な男の性だろうか。 そんな想いを込めて、歳三は総司を腕に閉じ込めた。 唐突な歳三の行為にも驚くことなく、総司は腕に納まって。 腕の中で、安心しきって委ねられたこの身が、何よりもいとおしい。 その身をまさぐりたい不埒な指を宥めながら、歳三は総司を抱き締めていた。 |
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どうしても、土沖だと沖田が幼く可愛くなっちゃいます。 |
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