薄ら氷



もうじき二人だけで過ごす2度目のクリスマス。
去去年も出会えたことに感謝しつつ、二人だけで過ごした。
今今年もきっと同じ。
違うのは二人で過ごす場所が、総司個人の部屋から歳三との二人の部屋へと変わったことだけ。
同じ部屋でも、歳三のものが沢山増えた部屋は、どこか雰囲気が違う。
それがこそばゆいような感覚を、二人に与えていた。
本来のクリスマスは、イエス・キリストの生誕を祝うためのもので、日本のように恋人と過ごすための祭りではないけれど、街中のイルミネーションを見ると、やっぱりどこか心が浮き立ってしまう。
だから、二人は恋人同士だけど、すでに家族でもある――それほど深い絆という意味で――から、ちょっとしたうきうき気分は神様にも大目に見て貰えるだろうと、勝手に決めて。


どうしても抜けられない用事とかで、後ろ髪をひかれるような素振りで、しぶしぶ出掛けていった歳さんに、そっと一つキスを落として見送ったのが3時間前。
その間に、けっこう料理好きな俺は、食事の準備に余念がない。
メインのローストチキンに、スープ代わりの魚介たっぷりのブイヤベース。それに今流行のコブサラダ。
それに、ケーキはあるけど、ちょっとした口直しにと、柑橘類を使ったゼリー。
どれも、俺渾身の作だ。
味見もしたけど、なかなかの出来栄えだと、自信たっぷり大満足。
料理が出来上がる合間には、テーブルのセッティングをして、用意も万端整った。
あとは、歳さんが帰ってくるだけ。
時計を見れば、そろそろ予約しておいたホテルのケーキを持って、戻ってくる頃。
プレゼントも隠しておいたクローゼットの奥から取り出して。
ラッピングに問題がないか最終チェック。
歳さんへのプレゼントは色々考えたけど、けっきょく服に落ち着いてしまった。
ざっくりとした大き目の紺のセーターと、白っぽいコート。
寒がりの歳さんには、ぴったりだろうし、色白の歳さんには映えるだろうと選んだ品だ。
本音を言えば、どちらか一つにしようと思っていたけど、着ている歳さんを想像したら、どっちも捨てがたくて奮発したのだ。
渡したときの嬉しそうな顔を想像するだけで、今からわくわくしてくる。
だから、歳さん早く帰ってきて。


こんな日に用事を作ってくれた教授に、俺は恨み言の一つも言いたくなる。
実際には、ゼミの担当教授にそんな真似はできないのだが。
とにかく文句を言っても始まらないので、手早く用事を済ませて帰りを急ぐ。
途中寄るところが二箇所。
最初の場所は、ケーキを予約しておいたホテル。
二人で食べるのにちょうどよい小振りのケーキを、1ホール頼んでおいた。
本当だったら、総司と一緒に取りにきて、街をぶらぶらとする予定だったし、料理も一緒にするはずだったのだが、俺の用事の所為でおじゃんになってしまったのだ。
そして、それを片手に寄ったもう一箇所は、総司のプレゼントを買った店だ。
倉庫の方にしか在庫がないとかで取り寄せてもらったのだが、なかなか届かずハラハラさせられた。
でも、一昨日やっと連絡があり、家を出る今日取りに来たわけで、何とか間に合ってほっとしている。
確認のために見せてもらった鞄は、黒を基調に青をあしらったメッセンジャーバッグ。
これならカジュアルすぎないから、どんな場面でも重宝するだろうと思って選んだ。
二つ手に入れたら、こんな寒い外には用はない。
早く帰ろう、総司の待つ部屋へ。


冬の夜は早い。
4時を過ぎれば、もう暗くなってくる。
両手に荷物を持ち、慌しく帰ってきた歳三が見上げた先には、ほんわかとした明かりがともった部屋。
それだけで心温まるから不思議だ。
エレベーターで上がり、廊下を足取りも軽く部屋へと急ぐと、エントランスでの操作で帰宅が分かっていた総司が、ドアを開けて待っていてくれた。
「おかえり」
「ただいま」
出迎えてくれた総司の笑顔に、歳三はその腕に飛び込みたい衝動に駆られたが、持っていたケーキに阻まれてしまった。
歳三がちょっと悔しく思っていると、総司にそれが伝わったのか、笑われてしまった。
だが、それに反論をする前に、ケーキの箱を取り上げられて、背中に腕を回されて部屋の中へと促されてしまった。
「ほら、早く入って……」
リビングに入ると、そこは暖かい。
外で冷えた顔がすぐに赤らんできそうな暖かさだ。
歳三が帰ってくる時間を見計らって、高めに温度設定してあったようだ。
キッチンへと入っていた総司が、温かい紅茶を持ってくると、リモコンを操作して快適な温度に下げた。
「ありがと」
受け取った紅茶の代わりに、総司が歳三のコートを受け取り、ハンガーにかけてやる。
こういういたわりが自然とできてしまうのが総司である。
部屋の飾りつけは、歳三が出かける前に総司と二人でしたものだが、冬になってから出したコタツの上に綺麗に盛り付けられた料理が並べられていると、また雰囲気が一段と違う。
うきうきとした気分でコタツに入り込めば、総司は卓上コンロに乗せてあったブイヤベースを皿によそって差し出した。
「熱いから、やけどに気をつけてね」
歳三の舌が猫舌気味なのを知っての、総司の言葉だ。
「わかってるよ」
総司の気遣いは承知していても、猫舌をちょっとだけ恥ずかしく思っている歳三はふくれたくなる。
それに気づいた総司が謝りながら、
「ごめん」
少し尖り気味になった歳三の唇を、ちゅっと啄ばんだ。
総司にそうされると、それだけでなし崩しに何でも許してしまう自分が、ちょっと情けない歳三でもあった。
歳三の機嫌がよくなったのを認めて、総司は一羽丸ごとのローストチキンを、ナイフを巧みに使って取り分けた。
そして、向かい合ってではなく、いつものように隣り合う辺に座った歳三と総司は、二人だけのクリスマスに心からの感謝を込めて、
「乾杯っ!」
と、祝福の声を上げた。
窓の外には綺麗な夜景が浮かびつつあり、聖なる夜にさらなる彩を与えていた。






>>Menu >>小説 >>胡蝶之夢 >>聖なる夜に祝福を