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歳三は無事、希望の大学に合格し、今日と明日は総司と二人で過ごす。 二日の間に新たに生活を始めるにあたって、必要なものを買いに出かけたりする予定だ。 その後は引越しの準備をしに家に帰り、運転免許取得の合宿に2週間入る。 それから戻ってきたら、総司の部屋に運び込まれているはずの荷物を解いて、新生活のスタートだ。 総司は理工学部、歳三は文学部で、同じ大学に通うのだからと、家からでも通えるにも拘らず、総司の部屋での同居を親に無理やり認めさせた。 今はその総司の部屋へと向かう途中。 歳三のかばんの中には、明日のホワイトデーに総司に渡すものが入っている。 紺と赤の色違いの揃いのマグカップ。 そのうち紺の総司のマグカップには、前に総司が好きだと言っていた店のキャンディを詰めた。 甘さちょっぴり控えめのそのキャンディは、歳三も好みである。 だが二人で食べれば、きっと顔を顰めるほどに甘いはずだ。 そんな舌の上で蕩ける甘さと、自分たちの甘さを想像して、歳三は頬を緩めた。 普段は冷たいといわれる歳三の笑みを、垣間見る幸運に恵まれた女の子たちは色めき立ったが、歳三に目には一切入っていない。 それどころか歳三の目に入るのはたった一人。 そう、総司だけであった。 また総司だけが、歳三の笑みを独占できるのだ。 数ヶ月前にはこんなこと、歳三は思っても見なかった。 それもこれも、総司に出会ってしまったから。 高校三年の最後の大会に出場し、歳三は有終の美を飾った。 高校二年と三年での連覇であった。 その時に、初出場の一年生の時と、二回目の二年生の時に連覇を飾った人として、紹介されたのが総司だった。 つまり、総司が二年の時は歳三が一年で出場していなくて、歳三が出場した二年の時は総司はもう引退していて、違う学校だった二人は出合う機会がなかったと言うわけであった。 だがそれでも歳三は、総司の名前だけは聞いたことがあった。 高校一年で、並み居る先輩たちを押しのけ優勝した人物だし、なにより「沖田総司」と言う名に興味を持った。 自分の「土方歳三」の名とともに、幕末の新撰組の幹部として知られた名前だったから。 そうして出会ってみて、懐かしい既視感を覚えたことに、歳三は驚いた。 それで、その場だけで別れてしまうのは惜しくて、歳三はもっと話をしたいと思ったのだ。 そう思ったのは向こうも同じだったらしく、二人はそれぞれの仲間と離れ一緒に帰って語り合った。 それからもときどき会い、進路をはっきりと決めかねていた歳三は、総司と同じ大学に決めることになった。 そして、関係を持ったのは、ほぼ一ヵ月後。 女にもててもそれほど興味の持てなかった歳三が、である。 だが、総司の手が伸びてきて絡んできても、舌が唇を割っても、何も可笑しいなどとは思わなかった。 それどころが、これが必然であるとさえ思った。 そうして、今に至る。 歳三は総司の1DKの学生用のマンションにも入り浸り、数学などを総司に教えられて受験に挑んだと言うわけだった。 そのおかげもあって、歳三は苦手な科目も大事無く無難な点が取れて、合格と相成ったのだ。 かばんの中でカタコトと、ときおり音を立てる二つのマグカップが、これからの二人の生活を象徴しているかのようだ。 お揃いの物が徐々に増えていく楽しみと、期待。 これからずっと、二人でいろんな物を育んでいくだろう。 総司の元へ向かう歳三の目の前には、輝かしい未来ばかりが広がっていた。 |
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