乱雨



沖田がやってくるという予感めいたものが、斎藤にはあった。
もっとも、それは斎藤の希望であったかもしれないが。
待つというほどのこともなく、物音も塗り込める土砂降りの雨の中、やがて斎藤の待ち人はやってきた。
気配を感じそっと障子を開けると、全身ずぶ濡れの沖田が縁に足を掛けるところだった。
縁が濡れるのも、畳が濡れるのも気に掛けず、日頃多彩な表情の沖田には似つかわしくない、無表情で上がり込んだ。
斎藤の方も気にした風もなく、部屋に入ってきた沖田の背で障子を閉めた。
すれ違う際に、雨の匂いで紛れてはいたが、微かな血の匂いがその体からしたのを、斎藤の敏感な鼻は捉えていた。
髪から滴り落ちる水滴もそのままに、沖田はずかずかと進み、物も言わずに端座する斎藤の目の前で、沖田は濡れそぼった着物を脱ぎ捨てた。
そして、稲光る光の中、一糸纏わぬ裸身を晒し、
「抱け」
と一言。

目の前で惜しげもなく晒す裸身に、斎藤は目を奪われる。
引き締まった体躯が、時折り光る閃光を受け、鮮やかに斎藤の網膜に焼きついていく。
誘われるままに斎藤は、沖田の中心で既にいきり立つものを、口に含んだ。

肉を斬り、骨を断ち、血を見れば、興奮し滾るのは人ならば当たり前のこと。
だが、今までにも幾人もの人を斬ってきたこの男が、「抱け」などと一度も言ってきたことがないのを思えば、斎藤の胸に面白からぬ思いが湧く。
そう。この男・沖田が今宵斬った相手である芹沢を、自分の手で始末したかったと思うほどに。

沖田の手が容赦なく斎藤の髪を掴み、もっとしゃぶれというように押し付ける。
それに応えるように、斎藤は舌を這わせ舐めてゆく。
竿を根元から先端に向け舐め上げてゆくと、さらに大きくなっていくのが如実に判り、斎藤を北叟笑ませた。
存分にしゃぶってから、きつく吸い上げてやると、
「うっ……」
沖田は声を上げて、したたかに吐精した。

足に力が入らなくなって崩れそうになる沖田を、支え膝立ちの状態にして、斎藤は沖田の尻に指を埋め込んだ。
口から吐き出した沖田の精を、塗り込めるようにゆっくりと指を差し込んでいった。
指を根元まで差し込んで、ぐるりと中をかき混ぜるようにまわせば、沖田の口から嬌声に似たものが上がる。
「あっ、あぁ……」
その声をもっと聞きたいと思いつつも、斎藤は口を塞ぐべく沖田の頭を抱え、乱暴に口付けた。
それは口付けなどという優しいものではなく、貪るような激しさだ。
舌の上にまだ残る沖田の精を、沖田に味あわせるかのようにしながら、指は沖田をさらに蹂躙していく。
跳ね上がる沖田の体を封じ込めて、指を増やして抜き差しを繰り返し、さらに跳ね上げさせてやりながら。

冷たかった沖田の体が、熱に浮かされるように火照り始めた頃、斎藤は自分の袴の紐を解き前を肌蹴て、
触れずとも天を突く勢いになった己のものの上に、沖田の尻を引き寄せた。
沖田の体重を利用して、徐々に腰を落とさせていく。
ずぶりずぶりと、沖田の中へ己のものが呑み込まれていくのは、斎藤に得も言われぬ快楽を与えた。
「んんっ! っんぁ……」
沖田の腰が落ちきる寸前、斎藤は沖田の両足を抱え上げ、腰に回させた。
すると当然、自分の体を支えきれず、沖田は斎藤を奥深くまで呑み込まざるをえず、衝撃に背を反らせた。

斎藤はこのまま沖田の肉に包まれているだけでも、言い知れぬ快感が得られたが、沖田が今望んでいるのはもっと激しい快感だろう。
もっとも、これだけでも沖田も快感を得ているのは間違いがない。
なぜなら一度果てた沖田の逸物は、再び天を突きその存在を主張していたから。
沖田の腰を持ち上げ落とし、沖田の中の良いところを擦り上げてやると、二人の間に挟まれた沖田の逸物は、汁を零し二人の腹を汚し始めた。
その汁を指に絡め、斎藤は沖田の胸に擦り付けた。
既にぷつんと尖り始めていた乳首を痛いくらいに捏ね繰り回し、その痛みすら快楽に転じるように仕向けた。

しかし、斎藤の愛撫がもどかしいのか、沖田の尻がもっとと強請るように揺れ始め、内部も誘うように蠢きだした。
「さいとっ、もっと!」
沖田に強請られては、斎藤に否やはない。
座位の繋がったままの姿勢から沖田を抱きかかえて、斎藤は仰向けに寝かせた。
仰向けに寝かせたとは言っても、斎藤は膝立ちの状態だから、沖田の尻は宙に浮き背中の一部で、体を支えているだけだ。
沖田を折り曲げるような姿勢で、斎藤は舌なめずりをしながら犯した。
斎藤の良く知る沖田の良い場所をめがけて、引いては突き入れ擦り上げると、沖田の口から絶え絶えの、しかし紛れもなく快楽を得ている声が斎藤の耳を打つ。
その声は、斎藤には心地よく、最上の歌声にも似たものだったが、雨音が激しく外には容易に漏れぬとはいえ、もしもの場合もある。
沖田の口から上がる喘ぎや嬌声が聞こえぬように、斎藤はその大きく武骨な手で沖田の口を塞いだ。
が、口を塞がれた不自由さは、さらに快楽を高めるのに役立ったようだ。
程なくして沖田が精を放ち、その瞬間の締め付けに斎藤も抗い切れずに、沖田の中に放って果てた。

斎藤が折り重ねるように沖田の上に被せていた体を、沖田から離そうと起こしたが、沖田は斎藤の腰に絡めた足を解かず、
「まだだ、斎藤」
掠れた声で、
「もっとくれ」
にやりと哂いながら、斎藤の首に腕を絡めた。
抱けと言うなら抱いてやろう。滅茶苦茶にしろと言うなら、してやろうと、斎藤は思う。
沖田の意のままに。
ただ、ここまで乱れる沖田が、斎藤には無性に憎かった。






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