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「う〜〜ん、いつ見ても可笑しいと言うのか、なんと言うのか……」 沖田と斎藤の目の前で演じられているのは、壬生狂言の中の『節分』という演目である。 節分会の参詣者の厄除け・開運を祈願し、繰り返し上演されるものであった。 今年で四回目ともなれば、見慣れたものである。 「沖田、……」 「ん?」 背の高い二人のこと、邪魔にならぬようにと、遠くから眺めていた。 斎藤の躊躇いの感じる呼びかけに、沖田は横目で見ながら生返事をしたが、斎藤は呼びかけたまま押し黙ってしまった。 それに口下手は仕方がないなぁ、と思いながら、沖田は話を振ってやった。 「伊東は、いったい何しに九州に行ったんだ?」 「さぁ、俺は聞いてない」 伊東一派と行動を共にし始めている斎藤だが、実際聞いていいないからそう答えるしかなかった。 が、例え聞いていても事実を告げるわけにはいかなかっただろう。 土方に密命を受けて、伊東に近づいている身としては。 「ふ〜〜ん? まぁ、いいけどな」 斎藤の言葉を信用していないかのような表情で、斎藤を見遣った沖田だった。 ただ、本当に信用していないのではなく、からかいを含んだ仕草だった。 「けど、帰ってきたら動きがあるだろうなぁ」 そう、残った篠原が新撰組脱隊に向けて、画策していることは確かだ。 詳しいことは、伊東はともかく篠原らの信頼を、まだ勝ち得ていない斎藤には知る術もなかったが。 「多分……」 「で、お前もそれに付いて行くと?」 「…………」 斎藤の無言は肯定に他ならない。 これで、よくも間者の如き働きができるものかと、沖田は内心呆れ返った。 ただし斎藤が伊東に接近しているのは、土方の指図であると気付いている者は、沖田ぐらいではあったろう。 「さっさと鬼退治をすりゃあいいのに、土方さんも結構悠長だよなぁ」 この場合、沖田の言う鬼とは、伊東のことだろうが、斎藤には迂闊に頷けるはずもなく。 黙ったままの斎藤を気にする風もなく、沖田は言葉を続けた。 「ま、なんにせよ。来年もこうして一緒に見れるように、早く帰ってくることだな」 「沖田……」 沖田にそんな言葉を掛けられると思っても見なかった斎藤は、感動の嵐の只中に放り出されたようなものだ。 沖田に手を伸ばそうとした斎藤は、だが沖田にさっと身をかわされて、 「でないと、お前のことを忘れるぞ?」 と、にやりと笑って顔を覗き込まれた。 「忘れさせん」 断固とした口調で斎藤が言うと、 「じゃあ、これがその証文だ」 沖田に掠めるように口を合わされ、その場に置き去りにされた。 薄情に見える沖田の背を追いかけながら、誓いを胸に刻んだ斎藤だったが、その約束の来年には京にいないことなど、今の二人は知る由もなかった。 |
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