「あっ、……」
ゆらりゆらりと揺らめく蝋燭の火を受けて、沖田の汗の滴る背がうねる。
沖田の両手を自分の両手でしっかりと組み合わせ、逃がさぬように背後から組み敷いて斎藤は激しく腰を使った。
「ひ、ぁっ! あぁ……んっ」
肉を擦られ突き上げられて、前に逃れようとしても、沖田は逃げることも叶わず、ただ尻を高く掲げて斎藤に犯されるのみであった。
が、斎藤が沖田を突き上げ縦横無尽に暴れれば暴れるほど、沖田の中はぎゅっと窄まり斎藤を締め付け、沖田自身も蜜を零していたのだから、斎藤が我が侭に振舞うのも致し方あるまい。
「――んんっ、……は、ぁん――」
沖田にしてもいつもとは違い、散々焦らしに焦らされた結果なのだ、乱れるなという方が可笑しかった。
一旦抜けそうなほどぎりぎりまで引き抜いてから、絡みつく襞に逆らうようにねじ込むように奥まで突き入れれば、その衝撃に沖田は背を極限まで反らして精を撒き散らした。
「! あっ――」
同時に窄まった沖田の内部に、斎藤も我慢できずにしたたかに放っていた。
そして、沖田の中にまだ埋めたまま息を整えていた斎藤とは対照的に、精を放った沖田はそのまま堕ちるように気を失っていた。
それでも、斎藤を飲み込んでいる沖田の中は、まるでそこだけ別の生き物のように斎藤に絡んだままだ。
沖田の中から抜き難く余韻を一人楽しんでいた斎藤だったが、沖田の体のいたるところに斎藤の執拗な前戯で付けられた接吻の痕を見つけ、嬉しそうに目を細めた。
自分が付けた痣にも似た痕。ありとあらゆる所に付けた気がする。
当分沖田は人前では裸になれまい。それほど多く、そしてあられもないところにも付けた。
そんなことを思っては、一人北叟笑んでしまう。
目に見える痕を無骨な指先で、斎藤は一つ一つ丹念に追っていった。


屯所が西本願寺に移り立派な道場ができて、一番喜んだのは誰あろう沖田である。
真新しい木の香りを吸い込みに、壬生のころとは打って変わって、嬉々として稽古に励みに来る。
まぁ、気まぐれな男のこと、いつまで持つか判りはしないが。
そんな沖田を賭けのネタにできるのは、ごく少数の怖いもの知らずだけであった。
そんな内緒のことはさておき、沖田らの稽古は木刀ですることが多い。
竹刀では真剣と違って軽すぎて頼りないからである。
もっともそれも最後には相手に怪我をさせぬように、寸止めできる沖田らの腕があってこそだ。
しかし、偶には自分の持てる技を駆使してみたい、と思ってしまうのも人情というもので。
月に一度か二度、沖田がそんな気になったとき、それにつき合わされるのは決まって斎藤であった。
斎藤であれば少々怪我をさせても大丈夫という沖田の言い分と、沖田の相手を誰にも譲りたくないという斎藤の気持ちが、釣り合っているから傍目にはどう見えようとも全く問題はなしである。
しかし、そうなるとさすがに木刀で、というわけにはいかなくなる。
防具をつけるのは普段と違いすぎて動きが鈍るし、なにより防具のない箇所を狙われたら着けている意味がないし、また当然狙うだろうからこれは却下である。
そうなると、仕方がないから竹刀で、ということになる訳で。

普段はにこやかで人当たりの良い沖田も、剣を持つと人ががらりと変わる。
こっちの顔が沖田の本性だと言う者もいたが、強ち間違いではないと斎藤は思っていた。
その沖田に対すると、ぞくぞくと快感が走り抜けるのだから、斎藤も終わってるというかなんというか。
そういう訳も裏に潜んでいながら、相手のことなど一切考慮しない試合が始まって。
その勢いに誰もが恐れて、遠巻きに見守るしかない。
竹刀だから寸止めしなくてはという意識が欠落していて、壮絶な打ち合いが繰り広げられ、とても竹刀とは思えない重い音が、道場中に響き渡る。
しかも、急所狙いの攻防だから、息つく暇もなく攻めては防ぎ、守りつつ攻め込んでと、目まぐるしく立ち位置も入れ替わっていく。
一進一退のせめぎあいが続き、二人の乱舞が永遠に続くかと思われたが、一度二人の竹刀が交わって、ぱっと離れた後は打って変わって両者静かに竹刀を構えて対峙した。
物音ひとつしない中、二人の荒い息を整える音だけがする。
そして、それぞれが間合いを図りつつ、もっとも優位な技を出す為の構えに移っていき、皆が固唾を呑む中どちらが先に動いたのか。
皆の目にはほぼ同時に映ったが、沖田の三段突きが斎藤に襲い掛かったのが若干早かった。
もちろん斎藤も竹刀で弾き交わしつつ沖田を狙ったが、一段二段はかろうじて交わしたが、最後の三段目に左肩を突かれた。
「ぐっ――」
痛みに眉を顰めて、斎藤は声を漏らした。
それでも、竹刀を取り落とさず、膝もつかなかったのは、斎藤の意地だろう。
何度対峙しても、沖田の三段突きを防ぎきることは難しい。
実際、沖田の三段突きにも稽古である以上禁じ手があって、喉から上の部分を狙わないこと。これだけは取り決めてある。
そして、三段目は必ず斎藤の左肩を狙うのが、斎藤との暗黙の了解になっていた。
それでも、一段目と二段目の狙いがその時々によって変わり、それを防ぐと来ると判っていてもその速さにどうしても三段目が防ぎきれないのだ。
そうして、斎藤の左肩には蒼く鬱血した痣が残り。
消えた頃に、また付いて、と繰り返していた。


沖田が斎藤に閨で痕を付けることなどないが、それでもたった一つだけいつも付けられる痕を愛しく思う斎藤だった。
その左肩の痣を手で撫で摩っている内に、沖田の中に収めているだけでは満足できなくなった斎藤は、そのまま沖田を無理矢理ぐるりと仰向けにひっくり返した。
「うぁっ。な、に……?」
衝撃に目を見開いた沖田の覚醒し切れていない抵抗などものともせず、斎藤は沖田の足を抱え上げ結合を深くした。
「んんぅ――」
指先で丹念に沖田の胸元に咲く接吻の痕を辿り、掌でつんっと尖がっている乳首を押し潰しつつ撫でて、沖田の体の反応を窺った。
斎藤の胸に腕を突っ張る表面上の抵抗とは裏腹に、斎藤を包む中に明らかな拒絶がないことを確かめ、もう一度沖田の艶やかな声を聞こうと斎藤は動き出した。
明日の朝、沖田に拳骨のひとつでも食らう覚悟で。








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