−H−

●鷹丸様

『何がきっかけだったのかは 判らない。』

いつのまにか…目が“それ”を追っていた。
持ち主の性格を現すように奔放に跳ね、風と遊び光を映し。
時に、肌から伝った汗を滴らせては飛ばしてみたり。

無意識にではあったが、見つめてしまっていたのだろう。
視線に気付いた悟空が、ひょいと上を見上げた。
その仕草を目にし、己の行動を誤魔化すように指摘する。
「貴様…何をやっているんだ?」
「何って…。おめぇこそ、オラの頭の上みてっからよ。何かあるんかなと思ってさ。」

見透かされたかと、一瞬鼓動が跳ねる。
「…別に見ておらんぞ。」
自らをさえも誤魔化すように、否定しながら悟空の頭を軽く叩く。

−触れる−

悟空が、なおも言い募ろうとしたとき悟飯に呼ばれ、お互いに微妙な蟠りを
抱えたまま話を中断する。
先に行く悟空の後姿を見て、自身の掌を見つめた。
一瞬触れた“それ”は、思いの外心地良く、柔らかかった。
過去に触れた事がなかったわけではないのだが、感情を伴わない接触など
無かった事と同じだろう。
手に残る、離し難かった感触を噛み締めるように、掌を握り締めた。


昼食後、自分の隣で昼寝を決め込んだ悟空は、すぐに熟睡してしまった。
かつては敵だったことさえあるというのに、何故こんなにも気を許して熟睡して
しまえるものかと呆れる事さえ、すでに無くなって久しい。
だが、今日はそれが新たなきっかけと興味を呼んだ。
目を覚ます事は無いだろうという確信はあったものの、なにがしかの後ろめたさ
があったのか、できるだけそっと、静かに“それ”に触れる。
微動だにしない悟空の様子を見て、次第に深く指を挿し入れ、先程一瞬味わった
感触を堪能するように混ぜる。
指先に、掌に、心地良く馴染む“それ”をさらに味わう誘惑は抑え難く
変わらず寝息を立てつづける悟空の“それ”に、そっと顔を寄せた。
太陽と草木、風の匂い。そして…持ち主の匂い…。
織り交ざったものは、臭覚から心と欲を酔わせ、匂いと感触に惹かれるように
そっと…密やかに。

−唇を寄せた−。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「ふー…」
自宅の風呂で一日の疲れを癒しながら、悟空は何気なく触れた自分の頭から下がる
前髪を見て、昼間の事を思い出した。
「ピッコロ…。 あんときは何見てんだと思ったけど…。オラの髪の毛見てたんだな。」
自分の髪を弄りながら、らしくないようなピッコロの行動に思いを馳せていると
何かがその髪から伝わった。

  …それは何か“想い”のようなもの……ピッコロの……。

ふと気付くと、鼓動がだんだんと高まってくる。
説明し難い…伝えられた想いを受け止めてしまった不安とか喜びのような
訳の解らないもの。 けれど答えを知っているような困惑に、独り呟く。

「まいったなぁ…。 なんでだろ? とまらねぇや。」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

翌日は修行が休みだというのに、唐突に悟空はピッコロの元にやってきた。
理由を聞くが、誤魔化したと思うといきなり、ピッコロの膝を枕に寝転んでしまう。
「おい!貴様!!何を考えているんだ!?」
「いーじゃねぇか。今日、修行休みなんだからよ♪」
「それとこれと、どう関係がある!?」

お互いに、昨日とは違う感情を持って触れ合う。
それは、今までと同じように軽い諍いのようでもあったけれど。
昨日も少し、そしてまた今日も少し。
 
知ったのは

−触れる喜び。 …触れられる喜び。−


end




管理人が描いたマンガ「H -communication-」をSSにしてくれました。
文章ならではの表現でまた違った作品になってて新鮮でした。ありがとうございました!

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