道行き
| 刀では斬れぬものがあると知った。
儂はお主には勝てぬと、 お主と始めて出会ったあの日に、 すでにわかっていた。 まして、お主と身体を重ね、 幾晩か、行くたびか、 儚い逢瀬の日々ではあったが、 ひたすらに儂を求めてくる、 お主の燃えさかる魂を、 その器である肉体の、 放熱とともに抱きしめて、 ますます確信は強くなった。 お主が望み続けたように、 再び刃を交わす日がきても、 儂はお主には勝てぬ、 儂はお主を斬れぬ、 お主の心は斬れぬからだ。 だからもしお主が儂を斬りたければ、 喜んでこの身を捧げよう。 それがお主に与えられる、 ささやかだがあたうかぎりの、 儂の真心だ。 お主には斬れぬものはあるか? 斬れぬものを見つけたか? 常から、寡黙だったお主は、 今また何も言わぬまま、 儂の腕の中にいて、 心は、現世の向こうにある村のどこかで、 儂を待っているのだろうか。 どうか、待っていてほしい。 今はしばらくこのままで、 お主と二人こうしていたい。 もしかなうのならば、 このままお主とどこまでも行きたい。 空がきれいだ。 |
