理想


男同士で酒場にいくと、どうも下らない話になりがちだとククールは思う。
けれども女の子を口説くときと違ってロマンティックな演出も必要ないし、それに多少下品な話をしても顔を顰めるものもいないから結構気楽なものだと思う。

今日もある城下町で待ってましたとばかりに化粧品の買い出しに行ってしまったゼシカに取り残された格好の男共三人は、いつものように酒場へと向かった。

エイトはあまりイケる口ではないらしく季節のフルーツジュースに少しだけラムを混ぜてもらったものを頼み、ヤンガスはここぞとばかりに酔いたいのか、日頃の鬱憤を晴らしたいのか強い蒸留酒を頼む。
ククールはそのどちらもイケるが、同じものを頼むのもつまらないと思ったので無難におすすめと店内に派手に書かれた地のビールを注文した。
酒と、めいめい勝手に頼んだつまみが運ばれてきて乾杯し、杯を重ねると酔いが回ってきて、そして自然といつもの馬鹿話タイムに突入する。

今日の話題は『イイ女について』という、ゼシカが居ないのをいい事に勝手なものに展開していた。


「そうでがすねえ・・・アッシは別にあまり女性の外見にはこだわらないでがす。」
「まあ、ヤンガスにはあの女盗賊のお姉ちゃんがいるからなぁ・・・あのキッツイ性格がどうにかもう少し丸くなってくれたらすげえいい女だよな」
「そんなことねえがすよ、ゲルダの料理は最悪でがす、アッシは一回腹を下して死に掛けたでがす。」
「・・・そうなのか・・・で、エイトは?」
「うーん・・・僕はどちらかというとのんびりした性格の子が好きかなぁ・・・」
「ああ、あのミーティア姫みたいな?」
「ち、違うよ!」
「兄貴、真っ赤になってるでがす。」
「酔っ払ったんだってば!とにかくミーティア姫は違うってば!」
「はいはい、解ったよ。」
「そういうククールはどうでがす?日頃からククールが声を掛ける女の子を見ていても基準がさっぱりわからねぇでがす。」
「うーん?俺はなぁ・・・・」

そういわれてみるとククールは自分でもどういう子が好みなのか自分では良くわからなかった。

女の子はとても好きだ。
何が好きなのかは今まで考えたこともなかった。

「うーん・・・なんていうのかなぁ・・・こう、顔の造りが可愛いんじゃなくて笑顔が可愛くって、髪は短くても長くてもいいから男とは違って体に丸みがあって、声が弾んでいて、ちょっと恥ずかしがり屋みたいに声を掛けられると戸惑って・・・近づくといい香りがして、手が華奢で、爪が綺麗に手入れされていて、ウエストがきゅっとくびれていて・・・うーん・・・」
「要するにククールは目が二つあって口が付いてて鼻が顔にあれば、女の子なら何でもいいってことでがすね。」
「そう聞こえるね。」
「!そんなことないぞ!うーん・・・なんていうのかなぁ、そうだな、俺にとっての『イイ女』ってのは素直に『ククール大好き』って言ってくれる子かなぁ。やっぱり女の子に素直に『大好き』って言ってもらえるのが一番嬉しいよ。」
しみじみ言うククールにヤンガスが不思議そうに訊ねる。

「・・・そんなに素直じゃない女の子につれなくされた過去でもあるんでげすか?」
「・・・何だかそう聞こえるね。」

そう言われて、ククールは反射的にいつも自分に対してつれない、そっけない態度の人間を思い出す。
もっともそれは『女の子』ではないが・・・


その事実にククールは人知れず冷や汗を流し、慌てて言う。
「いや、そんなことはない。まあ、大抵の女の子は『ククール大好き』って言ってくれるから女の子はみーんな『イイ女』だな、俺にとっては。」
「だからククールは守備範囲が広いんがすね・・・」
「二股三股かけて女の子に刺されないように気をつけなよ。」
「はは、大丈夫、俺はそんなヘマはしないって!」

ひとしきり笑い合っていたところに買い物を終えたらしいゼシカがやってきた。
「なあに?皆随分楽しそうじゃない?何話してたの?」
その問いかけに、未だ笑いの止まらないヤンガスは言う。

「いや、ククールの好みの女の子はどういう子なのか、って話してただけでガス。」
「ふうん?そんなの簡単じゃない」
あっさりというゼシカにヤンガスが訊ねる。
「え、嬢ちゃんはククールの好みが分かるんでげすか?」
その問いかけにゼシカは笑って応える。

「そうねぇ、一見冷たそうに見えて、高嶺の花風で、落とすのが難しそうな女の子かしら?
落とすのに必死で、女の子が落ちちゃうと途端に興味がなくなるみたいだけど?」

「ははぁ、ククールは絶対に落ちない女の子が好みなんでげすね。変な趣味でがす。」
「変わってるね。ククールってもしかしてマゾ?」
「あらー違うわよ。そういうのをツンデレ好きっていうのよ。」
「いやー、そうなんだよ、はっはは・・・・・」

自分の好みのタイプはゼシカやヤンガスの言うとおり絶対落ちない人物、冷たそうに見えて高嶺の花風の人物、ただし『女の子』ではないのを今更にククールはこっそりと再認識して、そうして何かを誤魔化すように、悟られないように、そして追求されないように、乾いた笑いをあげたのだった。まったく、女の直感は怖い、と思いながら。