少年ククールと秘密のおしごと



「さあ、こちらに来なさい。」
マルチェロがそういうと、ククールは不安そうに辺りを見回す。

無理も無い。

なぜなら初めて入った拷問部屋の陰鬱な雰囲気に圧倒されているのだろう。

「兄貴・・・?」
ククールは怯えた瞳でマルチェロを見上げる。
今年で11歳のククールは未だ声変わりも迎えておらず、体はどこもかしこも細くて頼りない。
目立つ銀髪に美しい青い瞳。
幾ら質素な修道服に身を包んでいても見る者が見れば、それは未だ発掘されていない宝石同然だろう。

マイエラ修道院は今年、様々な要素が重なって過去最悪の財政難だった。
様々な金策をめぐらしても、まだ足りない。
そんな中、ある金持ちの男が、聖歌隊の一人として歌っていたククールに目をつけた。

ククールを特別祈祷に派遣すれば、100万ゴールド寄付しよう。

そう男は言った。
その価格は狂気の沙汰とも言える。
戸惑う修道院の人間を相手に、男は言った。

「何、あの子になら100万ゴールドなど安い物だ。」と。

結果、教会はククールを売ることにした。
けれども、いきなり男の屋敷に送り込んだとしても、粗相を働いてしまうだろう。
ということで、マルチェロにククールに『特別祈祷』とは何であるか『手ほどき』をするように通達された。
もっとも、その通達内容は『適した人材でもって教育すること』となっていたのだが・・・

マルチェロは頭を痛めた。
騎士団員に任せたら血気盛んな彼等のことだ、加減が分からず、ククールの体をを金持ちに売る前にぶち壊しかねない。
それに・・・


「ククール、今日はお前に『特別な祈祷』を教えてやろう。」
そういってマルチェロは拷問室のドアの鍵を閉める。
「・・・兄貴・・・?」
「さあ、服を脱ぎなさい。」



「!!やぁ・・・!痛っ・・・!」
長い時間を掛けて油で馴染ませて、ようやく入れた指一本。それだけなのにククールは悲鳴を上げる。
「ククール、力を抜くんだ。」
「やっ・・・できなっ・・・!」

ククールの青い瞳から、ぽろぽろと涙が零れる。

「ククール・・・大丈夫だ。ゆっくり息を吐くんだ・・・」
「うぅ・・・ヤダ、嫌だよ、兄貴・・・」

ククールの顔色が見る見る青くなる。
これではいつ気絶してしまってもおかしくない。

「・・・仕方ない。ではココは後回しだ。・・・ククール、まず相手を満足させることから練習だ。」
そういってマルチェロはベルトを緩め、すっかり大きくなった自分のそれを取り出す。
その大きさにククールの顔はあからさまに引きつる。
「!!?」
「・・・さあ、ククール。これをゆっくりと舐めるんだ、決して歯を立ててはいけない。」
「嫌・・・」
「嫌では済まされない。いいか?これがお前の内に入ることになるんだ。」
「・・・入んないよ・・・」
「入らなくても入れるんだ。」
「・・・俺、死んじゃう・・・」





「・・・やっぱり幾らなんでも・・・」
そこまでマルチェロは脳内でシミュレートして、思考を中断させた。

マルチェロは深い溜息をついて、罪悪感に苛まれた。
いくらなんでも11歳のククールを男相手に売るのは可哀想だ。

「仕方ない・・・」
そう一人マルチェロは呟き、騎士団員を呼び集めた。

そうして、騎士団員たちの涙ぐましい『特別祈祷』の成果によってその年の財政難はスレスレで乗り切ったのだった・・・




5年後。

「聖堂騎士団員・ククール!酒場での乱痴気騒ぎ、今日という今日は許さん!」
「へえへえ、すんませんでしたー反省してますー。」

そのまるで反省していないククールの軽薄な口調にマルチェロの堪忍袋の尾が切れる。

「・・・貴様の後ろが未だ無事なのは誰のおかげだと思ってる!!?」
一方ククールには何のことやら分からない。
「ハア?何だよ、俺の後ろって・・・?」
「私の思いやりが分からないとは愚かだな、ククール・・・後で地下室に来るように。」
「・・・わっけわかんねぇ・・・分かったよ、地下室でも拷問室でもどこでも行ってやるよ。」

ククールがその言葉を後悔するのは、この後すぐだったのだった・・・

<了>