青年ククールと乙女の秘密


某月某日、サヴェッラであのイヤミ男に出くわした。

「おやおや、どちら様でしたかな。」
「いい加減にしろ!俺の顔も忘れたって言うのかよ!」

ククール、アンタそれじゃあまるで女の子よ?
幾ら『顔とイカサマだけがとりえの』って言い続けていた大好きなお兄さんに顔を忘れた、って言われたからって・・・。

ま、顔とイカサマだけじゃなくて年齢の割に細くて、でも中々いいカラダしてるのよねー
意外と背も高い。でもお兄さんの方が少しだけそれでも高いのがまたポイント高いし。
うーん、どれくらい背が違うのかしら?もうちょっと近づいて、きちっと真っ直ぐ立ってくれると分かるんだけどなー

と、思っていたらイヤミ男は何やら言ってどこかに行っちゃった。

「ねえねえ、ククール」
「え?何?いちいち話しかけないでくれない?鬱陶しい。」
「・・・」

あーあ、お兄さんに冷たくされてむくれてる。
ま、そういう表情も中々ソソられるのよね。
むしろいじめられるより、無視されたり冷たくされるほうがショックなのね、ふぅん・・・


その、冷えきった緑の瞳は、何の感情も示さないで目の前の異母弟を見つめた。
ククールが幾ら挑発しようと、その鉄面皮は崩れることなく、作ったような口元の微笑を貼り付けたままマルチェロは優雅にお辞儀をした。


・・・あ、やだ、今一瞬神が降りてきちゃったわ。
ま、とにかく今日は中々おいしいイベントだったわ。ふふ。
あとでゲルダにも話してあげようっと。




某月某日、因縁つけられて煉獄島に流されることになっちゃった。


さっきのイヤミ男の笑い、悪役が堂に入ってたわー
もうニノ大司教の悪役レベルなんてとうに超しちゃった感じ?


ガラガラと不安定な鎖でつるされて、巨大な鳥かごみたいな檻で地の底へと下ろされる。

ココが煉獄島。
なんというか暗くて黴臭くて最悪ね。
これで拷問道具さえ置いてあればあのイヤミ男が大好きなマイエラの拷問部屋に雰囲気がまるで同じだわ。

「ねえ、ククール・・・」
「悪いんだけどしばらく放っておいてくれ、・・・ちょっと混乱しててさ。」


あーあ、大好きな兄貴のあまりの変節っぷリに動揺してる。
うんうん、分かるわ。それでも昔、たった一度だけ優しかったあの兄貴を信じたいのね?
ククール、だからアンタって見ていて飽きないわ。

いや、この場合おしおきを受けたマイエラの拷問室を思い出してるのかしら?
あの、いつもは他人行儀なイヤミ男が、ククールだけを見てくれる、辛いけど視線を独占できる唯一の時間。

もちろんおしおきじゃなくて初めての『外でのお祈り』の仕事の前日、っていうのもいいわね。
年齢設定では幾つくらいかしら?
わたし的に、二次性徴が始まるちょっと前くらいが萌えだから12歳か13歳くらい?

きっとその頃のククールはチビだったでしょうね。


そんな細いククールの露わになった、血管が透けて見えるまでに白い腕をマルチェロは強引にベッドに押さえつけた。
「やだぁ!」
「うるさい、おとなしくしていろ。」
マルチェロは恐ろしく低い声で言った。
その声に、ククールの身体は思わずびくりと震える。



・・・うーん、いい感じ。
結構こうやって薄暗くて静かなところって妄想にはいいからいつまで居ても飽きないわ。

ふふふふ、とゼシカは一人笑う。



「ねえ、ヤンガス・・・ゼシカ大丈夫なのかな?なんか一人で微笑んでるんだけど・・・・」
その不安げなエイトに、ヤンガスは悟りきった表情で言う。

「心配ねぇでがすよ、女はよくああいう風に一人で思いをめぐらして笑ってることがあるでげす。ゲルダもよくあんな風だったげす。」
その言葉に、エイトは思い当たるフシがあるのか頷く。

「・・・まあ・・・そうなんだけどさ・・・ミーティア姫もそういうことがよく有ったし・・・でもさ、どうもゼシカが笑ってるときって・・・ククールには悪いんだけど・・・ククールがあのお兄さんにいじめられた時のような気がするんだけど・・・・」
エイトの言葉にヤンガスは首を振る。

「まあ、それは言わぬが華ってヤツでげす。」
「・・・そうなの・・・?」

穏やかに言うヤンガスは、どこか目がうつろなのだった・・・きっと、もしこの煉獄島から出ることができたのなら、ゼシカはすぐにゲルダの家に遊びに行き・・・そして当分自分はゲルダに相手をしてもらえなくなるだろう、といういつものパターンに溜息をついたのだった・・・


<了>