私の告白


「愛してるよ」
その言葉に女は呆れる。
「ハァ?あんた、ヤッてる最中に訳わかんない。何かの練習?」
「こういう言葉は素直に取っておくもんだぜ?」
「・・・そんなことより、早く」
女はもう上り詰めているのか、ククールを急かす。
そうしてククールも上り詰め、快感に身体が震えるのを感じながら、あの男の顔を思い出す。

何回この想いをあの男に口にしただろう?
その言葉を、【愛している】という、還元され尽くした純粋な気持ちを伝える言葉を・・・何度伝えても皮肉な笑みで跳ね返す。

女の肌のぬくもりは離れがたかったけれども、ククールは衣服を整えてマイエラに戻る。
いつものアイアンメイデンの裏の道を通り抜ける。
鉄製の乙女の蓋をゆっくりと慎重に閉める。

ずっと昔、ドニへ抜け出して女を初めて買ったその帰り。
気分が酷く高揚していた。
そんな、正面玄関から帰ってきたククールをマルチェロは有無を言わさず地下の拷問室に引っ張っていき、そしてこの鉄の乙女の中に放り込んだ。

てっきり自分は穴だらけになって失血死するのかと思った。
ずさっと、自分の身体を無数の、血で錆びついた刺が、刺し貫く苦痛と恐怖に思わず両手を顔の前で組んだ時、後ろにひっくり返った。

「・・・??」
生きている。
痛くもなんともない。

思わず上を見上げると、そこには鉄製のドア。

「お前のような奴は、もうマイエラに帰ってくるな!」
鉄製のドアの向こうから聞こえる厳しい兄の声。

その日から、ククールはこの秘密の抜け道を利用させてもらっている。


「・・・愛してる。」
決して受け入れられないけれども。
もう一度言ってみる。

「貴様・・・鉄の乙女に愛を囁くとはとうとう気でも違ったか?」
その声にククールは振り返る。

そこには鉄の乙女より、張り付いたような皮肉な笑みを浮かべるあの男。

「これはこれは団長殿。いやなに、私のこのささやきを笑わずに最後まで聞いてくれるのはこの鉄の乙女だけなのです。」
「ふざけるな!」
「本当さ、兄貴。俺は何度でも言ったのに、『愛してる』って、何度も何度もあんたに言ったさ。けれどもあんたは無視ばかりする。聞かないフリをする、もしくは笑うだけだ。だから今夜は彼女に、・・・決して俺の事を笑ったりしないこの鉄の乙女に愛を囁いたのさ。」
「・・・とにかく、今は貴様の戯言を聞いている時間は私にはない。明日、じっくりと貴様がこのような刻限まで何処で何をしていたか聞かせてもらおう。」
「・・・相変わらずつれねぇの」

背を向ける兄を見送ってから、ククールはもう一度、決して返事など返ってこない事を分かっていてあの言葉をつぶやいたのだった・・・

<了>