職業・踊り子


嵌められた純銀細工のブレスレットが振動にしゃんしゃんと鳴る。
少しテンポがずれて、首に、まるで自分の所有物、とでも誇示するように嵌められた御そろいの首輪の細工も鳴る。

(ったく、金持ちの考えることはわかんねぇ)

ククールはそれでも『恍惚とした表情』というのを作って、今日の主人を楽しませるようにその体の上で乱れたように『踊る』。

しゃんしゃんと、音楽を奏でるように。
艶やかに踊る。


もうすべての感覚が麻痺してしまっているように思える。

くだらない。

初めてこういう仕事を請けてから、一体どれくらいの月日がたっているのかよく判らない。
仕事の度にククールは、それをくだらないと思うし、そしてそれが終わったあとそれなりにむなしくも感じる。


最初はテクニックが未熟だとクレームがあった。
だから『サービス』をよくする為に『再教育』が施された。
次に態度が悪いとクレームがあった。
だから『演技』を『再教育』された。


今のククールは最高のサービスに最高の演技。
もはや誰もクレームなどつけない。

演者が舞台の上で何を考えているかなんて、観客は知らない、もしかしたら興味もないのかもしれない。
ましてや舞台をおりた後の演者が泣いてようと笑っていようと、客は知る術もない。

けれども演者を括る、主人は知っている。
決してククールを解放などしない、横暴なあるじは、演技を終えて舞台からおりた踊り子に冷淡に言う。

「お前が心の底から乱れて踊るのは、私の前だけだな」と。

悔しいけれども、それは本当だった。
けれどもククールは、強がって言う。

「あんたも、ほかの客もみんな、俺にとってはただの観客さ。兄貴。」と。

そうあるじを挑発して、けれども本当は少しだけあるじが欲しかったので望みどおりに、ククールは彼の言うとおりに心の底から乱れて彼の上で今夜も踊った・・・





<了>