「兄貴、コレなんだと思う?」
そういってククールは手のひらに大事そうに載せているものを、書き物をしている最中のマルチェロに見せる。
そこには無数の粒。

「・・・ゴマか?」
そうマルチェロがいうと、ククールは「わかってねぇなぁ・・・兄貴。」となにやら偉そうに言う。

「これはな、四葉のクローバーの種さ。」
「くだらん」
「ちょっ・・・」

口上の途中で見事バッサリと切り捨てたマルチェロにククールはあわてる。

「くだらんって、夢がないなぁ兄貴。四葉のクローバーといえば・・・」
「そもそも見つからないから希少価値のある四葉の種をどうして貴様が持っているのだ?」
兄のつれない言葉に、それでもククールは言う。
「さっき巡礼に来ていた商人が分けてもらったのさ。」
「幾らだ?」
「1グラム1000G」
「ふん、貴様の幸福は安いものだな。」
「・・・なんだよ、・・・兄貴、何かヤなことでもあったのかよ?」
「貴様には関係ない。」
「とにかく!見事四葉が咲いても絶対兄貴には分けてやんねぇ」

そういってククールにしては珍しく怒ると、部屋のドアをバタン!と閉めて出て行ってしまったのだった・・・


「まったく・・・くだらない。」
マルチェロは部屋を出て行ってしまったククールにため息をつく。
そして書き物をしていた手を止め、窓辺においてある観葉植物を眺める。
いや、実際には背の高い観葉植物ではなく・・・それを植えてある鉢だ。

しばらく前、マルチェロもきっと同じ巡礼の商人から同じものを購入した。
そうして観葉植物の鉢にそっと植えてみたのだが・・・出てきたのは三つ葉ばかりであった。

「まあ、買い物は私のほうが上手いということか。」

マルチェロが購入したときは1グラム700ゴールド。
それがきっと自分の幸せの値段。

弟のほうが、幸せの値段が高いのがちょっとシャクだったけれども、それでもマルチェロはいつものように口元だけで笑うと、陽が差し込む窓辺の植物たちに、水をやったのだった・・・



<了>