力関係


「よっ・・・と!」
ククールは粗末な縄で括られた薪を掛け声とともに持ち上げる。
その様子を傍らで見ていたマルチェロはいう。

「・・・世界中旅をしてきたという割には・・・お前はあまり筋力がないな。」

そのマルチェロの言葉にククールは言う。
「まあさ、いい男っていうのは程よく筋肉が付いていればいいのさ。」
「ふん・・・」

その弟の減らず口を鼻で笑いながらも、マルチェロの顔は穏やかだ。
世界に明るい空が訪れた後、色々な悶着があったが何だかんだいって自分たち兄弟は案外上手くやっている。

「まあ、ホントの所、あのバカ力ヤンガスとか、無表情の割に怪力エイトが居たから別に俺に筋力は求められてなかったんだよ。
どちらかというとククールは賢くあれ!って感じ?
俺が賢ければ賢いほど回復係として重宝されるからさ。」
「・・・お前たち、よく生き延びたな。」
「それって俺がバカってことかよ?」
「・・・」

以前なら、下らないケンカになっていたかもしれない。
けれど最近の二人はこんな会話さえ楽しめる。

「それにしても一応元は騎士の端くれだというのに・・・」
そういって薪を割るマルチェロの二の腕には、ごつくは無いけれども鍛え抜かれた筋肉。
ククールの幾分ほっそりした印象の腕とは随分違う。

「・・・たとえばこんな風にされたらどうするんだ?」
ぐいっと、不意にククールはマルチェロに手首を掴まれる。
「ちょっ・・・!」
次にねじりあげられてククールは戸惑いの悲鳴を上げる。
抵抗しようにも、がっちりと掴まれた手首は、マルチェロのたくましい二の腕の筋肉が相手ではびくともしない。
「更にこんな風にしてしまうことも簡単だ。」

そう言われ、腰を押され、ひざの後ろを軽く蹴られ、ククールの体はしなやかに曲がる。
かろうじてマルチェロに支えられた手首だけでバランスを取っている状態。
まるでダンスを踊り終えた踊り子のような艶かしい体勢だ。

「お前を押し倒すのはこのようにいとも簡単だ・・・」

そのマルチェロの言葉にククールの顔は真っ赤になる。
なぜって、覗き込まれたその愛しい顔が、あまりに近すぎて。

「・・・バカ!ったく、こんなことしてる暇ねぇって、とっとと薪割り片付けちまおうぜ。」

それでも、そんな風に素直ではない言葉を吐き出してしまうのは、まだ素直に愛されることに慣れていないから。
そんな言葉でも、マルチェロは余裕を持って受け止め、そして「そうだな、片付けてしまおう」とようやくククールをしっかりと立たせる。

「・・・俺もやっぱりもう一度鍛えなおそうかな。」
ククールは立たされて、くるりとマルチェロに背中を向けてから小声で言う。
「ほう?それはいい心がけだ。」
「だって押し倒されてばっかりじゃ悔しいし・・・いつかは兄貴を押し倒してやる!」
「・・・」

マルチェロはそんな愚弟の、ある意味かわいらしい言葉を今度は笑えずに、そっとため息とともに聞き流したのだった・・・


<了>