毒虫を食らう色


「・・・はっ・・・ぁ・・・」
ククールは切なげな声を漏らす。
何かを言いたいのだけれども何も言えずに、体の中で暴れまわるマルチェロを存分に知覚して、快楽を享受する。
自分と、異母兄はいつからこういう関係なのだったっけと、時々、抱かれている最中にでも思う。

昔は無理やりだったような気がした
憎悪を込めて乱暴にもされた

けれども、今は、そう、何の蟠りもなく二人で暮らすようになってからは、そうではなかった。

昔、マルチェロが事が終わって、南の地方に住むという、綺麗なクジャクを思わせるブルーの制服を彼がその鍛え抜かれた身に身に纏うとき、ククールはいつも空しかった。
彼が制服を纏う様を、いつもククールはだらりとした肢体を、時にはベッドの上で、時には拷問部屋の冷たい床の上で投げ出して、なんとなく見上げるように眺めていた。

けれども、今のマルチェロは、その服をもう纏わない。
ただのくつろいだシャツ。一般人の服。

「・・・なあ、兄貴。クジャクってさ、見たことある?」
今だ消耗してベッドに横たわりながらの突然のククールの問いかけに、幾分安らいだ顔だったマルチェロの眉間に一瞬だけ皺が寄る。
どうした、とも聞かれたけれど、ククールはそれには答えずに「見たことある?」とまるで子供のように聞いた。
「一度だけ、見たことあるな。」
「そっか・・俺、本でしか見たことないけれど、どうしてあの鳥ってあんなに綺麗なのかな?」

そう、先日町に買出しにでたときになんとなく入った本屋。
そこで、なぜか興味を惹かれて手に取った鳥類の図鑑。
雄雄しく綺麗な羽を広げ、青い胸を誇らしげに反り返らせているようなクジャクの絵。
その絵が何となく気に入っていたから、ククールは尋ねた。

「・・・さあ。女神がそう作ったからだろう。」
「・・・つまんねぇ答え・・・」

自分の問いかけにバカらしくなって、ククールは僅かに笑う。
そんな異母弟をマルチェロは少し不思議なものを見るように眺めてから言う。

「だが、あの鳥は綺麗だが、毒虫やサソリを食らうそうだな。その毒が凝縮されてあのような他にはない鮮やかな、魅力的な色合いなのかもしれないな。」
「・・・ふうん、だから青かったんだ。」

食らわれていたのは、自分というジャマな毒虫
その毒虫を貪って輝いていた青い制服の人物

「・・・何の話だ?」

ますます持ってマルチェロは不思議そうに聞いたけれども、ククールはかぶりを振る。
そんなククールの銀髪を、戸惑いながらもマルチェロは撫でながら言う。

「昔の人間は、あのクジャクの色が素晴らしいと、あの鳥から染料を取り出そうとしたが・・・どういうわけかあの鮮やかな青は取り出せなかったそうだ。
あれはただ、見た目は美しいが他のものには何も与えない存在だ。」
マルチェロは博識をひけらかしたけれど、ククールは「だからあんな青だったんだ。」とよく、かみ合わない返事をよこす。

輝いていたけれども結局は何も成さなかった青い存在
けれども今は青くない、自分が青かったのを思い出すのがイヤなのか、頑なに青を避ける存在

「でも、鳥は鳥さ。人間は違う。いつだって色を変えられるんだな。」
「・・・ああ?どうしたんだ、一体今日は。」
「なんでもない。」

そう言って、ククールがまた甘えるようにマルチェロの白いシャツに顔をうずめたのを、マルチェロは優しく抱きとめたのだった・・・


<了>