楽園への憧れ神様、ヒトはどうしてこのように罪深いのでしょうか 神様、ヒトはいつあなたの楽園へ帰ることを赦されるのでしょうか 神様、 神様 ククールは身震いをしながら目を覚ました。 そこはいつもの天井 自分の部屋 誰かに対して、ひどく不満を抱いていたような夢を見ていた。 けれどもそれが誰に対してかは分からなかった。 気づけば季節の変わり目で、肌蹴た質素な寝具から出た体が冷え切っていた。 風邪を引いてはいないようだったが、いまだ寒気がした。 「おい、ククール、礼拝の時間とっくに終わっちまったぜ!」 同室の騎士が聖歌集を片手に聖堂から戻ってきた。 言われてみて、ククールは初めて自分に課せられていた礼拝の存在を思い出す。 もっともその礼拝にきちんと出ることはククールにとってまれでしかなかったけれど。 「で、団長がお呼びだぜ。」 「ああ、わかった。」 どうせいつもの小言だとククールは知っていたから生返事をして、いつもより冷たくなった水で顔だけ洗って、マルチェロの部屋へと赴いた。 「お前は自分に課せられた義務をいうものが分かっていないようだな。」 マルチェロのいつもの不機嫌な顔 それでもククールは見入ってしまう、とても罪深いことだと分かっているのに。 「聞いているのか?」 なぜ兄弟なのだろう?自分は生まれ落ちた瞬間に安息の地から追い出されてしまった人間だ。 「・・・・」 「・・・」 続く小言。 上の空のククール。 ああ、そうだ、俺はまた、きっとこのヒトの夢を見ていたに違いないとククールは思う。 憧れているのに届かないもの。 渇望しているのに手に入らないもの。 愛を叫んでも振り返らないくせに、自分を手の内にとどめようとするもの。 いつも傍にいるというのに、決して触れられないもの。 「とにかく、礼拝はお前にも課された義務だ。寝坊などとは言語道断だ。」 それでも 完全な亀裂を入れてくれないもの。 けれどもククールはそれが、いつもオディロ院長のお話に出てくる、天のいと高きところにおわす存在の話だと気がついて、自分が誰に対して不満を抱いていた夢を見ているのかをようやく思い出した。 神様、そんなに俺が嫌いですか? 神様、そんなに俺が嫌いだというのなら、もうあなたの目の届くところに俺を置くのをやめてください 神様、俺はアンタが大好きなのに、ちっとも振り返ってくれない酷い仕打ちは辛過ぎるんです 神様 神様 いや、なんの変わりもないではないか。 それが神様、であっても、兄貴、であっても。 ククールはそれに気づくと、ようやく血液の回ってきた指先を握り締めて、慇懃なまでに不遜な態度でマルチェロに一礼すると、その執務室から出て行ったのだった・・・ <了> |