怒ったり泣いたりするのもいいけど、出来る限り笑っていよう。




「〜♪」
あいつはよく、鼻歌を歌う。
それが世間一般に知られている歌のときもあれば、音階もテンポも滅茶苦茶な、きっと思いつくままに音を並べているものもある。

「楽しそうね。」
火をおこそうとかがみこんでいるあいつの横に、私も薪を寄せ集めながら少しだけあきれて言う。

「そりゃあ、できるだけ楽しく過ごしたいさ。
なあゼシカ、今の曲知ってる?”上を向いて歩こう、涙がこぼれないように”ってやつ。」
「ううん、知らないわ。」

初めて聞いた歌に私は素直に首を振る。
そうするとククールはちょっと口元で笑って続ける。

「この歌ってさ、よーーく歌詞を聞かないとアップテンポで楽しそうな曲なんだ。
でもすっげぇ歌詞は寂しい歌さ。」
「それって変ね。」
「でもさ、暗い気分のときに暗い歌歌ったらもっと沈むだろう?だから俺はこの曲は結構好きさ。」
「・・・今、暗い気分だった?」

そう私が訪ねるとあいつはさっきよりもっと歯を見せて笑う。

「いいや、もう忘れた。・・・ゼシカがそんな体勢で俺の横に座ってちゃぁな。」
言われて、私は屈み込みつつ大きく胸の開いたデザインの自分の服がはだけていて、あいつに中身がほとんど見えかけていたことに気づく。

でも私は知っている。
そんなこといいつつも、ククールは自称紳士だから、そこには注目していないことを。

けれども私は思いっきり
「もう!心配して損した!」
そう言って、怒ったようにすっと立ち上がってくるりとあいつに背を向けた。

きっとあいつはまた、今の歌を歌いながら、何かを悲しんでいるんだろうな、と思いながら・・・



<了>