嫌いだったら、一緒にいないよ。



ごおごお、と無慈悲に吹雪は音を立てて北国の景色をさらに白く塗り替えていた。
どこもかしこも真っ白だ。
ガタガタと微妙に立て付けの悪い窓の隙間から、冷たい空気が否応も無く流れ込んでくる。

「・・・なんでわざわざそんな窓辺にいるのよ?」
ゼシカが少しあきれたように言う。
パチパチ、バチッと、暖炉で、良く乾いていた薪木の細いところが爆ぜる音と、その声が重なる。

「・・・マイエラのさ・・・」
「・・・?」
「マイエラの冬も一回、こんなだった。
あの冬はちょっと異常だったんだよな。
一晩中吹雪いたとおもったら、次の日の朝は静かでめちゃくちゃキレイでやんの。」
「・・・そう。」

質問に対する答えになっていない。
でもゼシカはそんなことは彼との会話で良くあることなので、短く返事をしてから新しい薪を暖炉にそっと入れる。

「あーあ、どうも今日は調子悪ィや。
・・・なあゼシカ、修道院ってさ、建てられたのが昔だからか、すっげえ寒いんだ。それに質素と堅実、とかいって毛布も粗末なものだったし。
あの冬は特に酷くて、しもやけになるやつも居た。」
「・・・」
「でも俺は『特別だ』って、なんだかあの冬は毎晩のようにちょっとは温かい兄貴の部屋に入れてもらってたもんさ。
案外、俺はそれが好きだった・・・」
「・・・そう。」
「アイツも同じかな。」

彼はいつも悩んでいる。
自分を愛してくれていた人はいたのかと。

「・・・嫌いだったら、自分の部屋に入れたりなんかしないわ。」
「・・・そっか、サンキュ」

私は否定の言葉も肯定の言葉も、この種の問いかけには答えないようにしているけれど、今日のあいつはいつに無く寂しそうだったから、そういうと、ククールは笑う。

「おれもゼシカのこと、嫌いじゃないぜ?だからこうやって一緒の部屋にいる。」

そう微笑むあいつに、一瞬だけ見蕩れたのは、内緒。

「バカ言ってんじゃないわよ。エイトもヤンガスも同じ部屋じゃない。」
「・・・それもそうだな。」

わざと冷たく応えた私にそういって、ククールは部屋の隅のベッドですやすやと健康的ないびきをかく旅の仲間を見て、また笑って言う。

「金がないからって4人同室ってのは無粋だな。今度は俺とゼシカの二人部屋にしてもらおうぜ。」
「絶対イヤよ」
「ちぇっ・・・つれねぇの」

まだ、雪は止みそうにもなかった・・・


<了>