死ぬまで恋人でいよう。死んだら生まれかわって、また恋人になろう。




天に在りては願わくは比翼の鳥と作り
地に在りては願わくは連理の枝と為らんと
天長く地久しきも 時有りて尽く
此の恨みは連綿として尽くる時無からん


「あら、何の話?」
ゼシカが、読書をしている俺に尋ねてくる。
「・・・くだらない恋愛モノさ。」
そう俺が応えると、「珍しいわね。」と彼女は言う。
「そうかな?」
俺が言うと、ゼシカは「だって珍しいじゃない。官能小説ならまだしも恋愛小説なんて。」

俺は今更、この本に性的な描写が多分に含まれていることも彼女に言えずに

「この恋愛経験豊富な俺に向かってそういうこと言っちゃう?」と笑うと、ゼシカは「うそばっかり。恋愛経験なんてアンタにはほとんどないでしょ。」と痛い所とついてくる。

「で、どんな話なの、これ?」
「ん?ああ、むかーし昔、賢い王様が、息子の妃を見初めて、息子を出家させて追い出したあとはその妃に昼夜はまり込んで、国を傾けて、ついに国を追われて、その道中、不満を抱く部下をなだめるために泣く泣くその、愛しきっていたはずの妃を自害させる、っていう長い話さ。」

わざと平坦で、安易で、陳腐な言葉を選んで噛み砕いて彼女に説明する。
彼女の表情から、まだ俺は彼女の心の中をうかがい知ることはできない。

「で、その王様はまだバカなことにその女を忘れられずに、賢者に命じてあの世に彼女を探しに行かせるわけさ。
賢者が言うには、
『天に在りては願わくは比翼の鳥と作り
地に在りては願わくは連理の枝と為らんと
天長く地久しきも 時有りて尽く
此の恨みは連綿として尽くる時無からん』って彼女は言ってましたよ、ってわけさ。」
「・・・ふぅん。」

天にあるうちはいつでも体を寄せあい飛ぶ鳥のように
地にあるうちは寄り添い、風に揺れる枝のように
天は永遠地は久遠だけれども
引き裂かれたこの恨みは尽きることはない

「夫から引き離された女が本当にそんなこと言うわけねぇのに、この王はバカだから信じたんだろうな。」
「・・・でもちょっとロマンティックね。あの世でも一緒だなんて。」

ああ、きっと彼女は死んでしまった愛しい人のことを思い出している。
俺の心のなかが、なんとなくざわめいたから、俺はわざとらしく彼女に肩を抱き

「じゃあ、この俺が一緒の幹から生える二連の枝になりましょう。こうやっていつでもゼシカの隣にいてやるよ。」

そして息つく間もなく俺の頬に飛んできたビンタを甘受すると、怒って走り去る彼女の背中に俺はそっとため息をついたのだった・・・





<了>