遺されたものの選択
お母様は随分小さくなってしまったような気がする。 アルバート家では身内が亡くなると、家の中に篭って喪に服すという。 けれども、私はそんな母の言う代々のしきたりに逆らって何回か、一人であの塔の上の・・・サーベルト兄さんが失血死したところへ花を供えにいった。 そんな私をお母様は眉を顰めて、そしてお小言を言う。 私はそれを無視する。 お父様が死んでから、ずっと私はお母様に従っていたのに・・・だからお母様はますます苛立たしげに、お小言をいう。 だって、一人っきりは寂しいもの 私はなぜかそう思い、あんなに疎ましかった兄さんの所へと行く。 お前にそっくりでふさわしい、と、兄さんが言ってくれた赤いガーベラの花束を、村の中のお花屋さんでこっそりと買って。 もしもその花言葉のようにこの世に『神秘』があるというのなら。 私はもう一度兄さんに会いたい。 私はこれからずっと一人っきりなの? そう聞きたい。 「ゼシカ!どこへ行くの!?」 お母様のピリピリとした声が後ろから聞こえて、私は臆病な春の野の、ウサギのように駆け出したのだった・・・ <了> |