傍にいるって言ったじゃない



私の隣にはいつも兄さん。
私と同じ赤毛の、けれども少し険しい目つきをした兄さん。


その隣が妙によそよそしい今日。


「ゼシカはすぐ兄さん、兄さんね。」
お母様はいつもそうため息をついていたのに、もう何も言わない。

もうサーベルト兄さんが私の隣にいることはないのだから。


先週の、日曜日。
礼拝のときサーベルと兄さんは私の右側で『主よ憐れみたまえ』と歌っていた。

そして今週の日曜日
私は同じ聖堂で『主よ憐れみたまえ』と歌った。

隣には誰もいなかった・・・

私の右側には黒いヴェールをかぶって下を向くお母様。
彼女も『主よ憐れみたまえ』と声を震わせて歌っている。

明日からきっと私の右側にはお母様すらいないんだ。

私はぼんやりと思いながら、『主よ憐れみたまえ』と皆がそうするように歌い続けた・・・



<了>