葬列
それは雨の日のこと 「Kyrie eleison, Kyrie, Kirie, Kirie eleison」 聖堂に歌声が響く。 しとしとと降る雨が、アルバート家の先祖が建てたらしいこの聖堂の古い屋根を湿らせる。 黒いヴェールの向こう側に映る世界は薄情なくらいに色に溢れていて。 私は白い百合の花を棺おけに入れる村の人たちをぼんやりと目で追う。 隣でお母様がずっと下を向いている。 ああ、この人はまた大切なものを亡くしてしまったんだ 私はそう思った。 亡くしたのは私も同じだけれども・・・きっと私は人より薄情なのだろう。 涙も出なかった。唐突すぎて。 「さあ、ゼシカちゃん、最後にお兄様の顔を見てあげなさい。お別れよ。」 いつも優しくしてくれる宿屋のおばちゃんが、私に言う。 私はしり込みして、皆が囲む兄さんの棺おけになかなか近づかない。 マルクが『ゼシカ姉ちゃん・・・』そういってその小さな手で私の手を引く。 それにつられて私が前にでると、ちょうど兄さんの顔が見えた。 『ゼシカは泣き虫だな』 いつもそんな風に言った兄さんが、まるで寝ているみたいだった。 泣き虫なんかじゃないわ。 そう、私は強がろうと思った。 けれども、私は何にも言えないで、渡されていた白百合をまるで投げ捨てるように兄さんの棺おけの端に入れた。 「イヤアアアア!!」 そして、私は泣いた。 泣き虫って笑われるのが嫌で、ずっと泣いてはいけないと思っていたのかもしれない。 私は泣き声とも金切り声ともつかない、お腹のそこから出てくる声をもらした。 その声にびっくりしたように、ポルクが私に駆け寄る。 「ゼシカ姉ちゃん!」 「Kyrie eleison, Kyrie, Kirie, Kirie eleison」 「どうして!?どうしてなの!?」 私は体の震えを止められずに、皆があっけにとられるのも全く知らずに取り乱した。 そうして、私は聖堂から出された。 私が正気を取り戻したときには、兄さんはもう冷たい土の下。 あの日の雨を沢山吸った土の下で。 そうして私の涙は何日も止まることはなかったのだった・・・ <了> |