そんなのってズルい



白い薔薇の花束を、私は高価そうな玉石で出来たお墓にそなえる。
お母様が、リブルアーチの職人に注文したそのお墓はとてもキレイで。

毎日毎日私はその、兄さんの代わりになった石を磨いて、そして兄さんが好きだった白い薔薇を供える。


サーベルト兄さん、ズルいよ。


最初は悲しみしかなかった私の感情も、多分この状況に慣れたのか色々な事を感じさせ始める。

大好きなサーベルト兄さんが亡くなったのはつい最近のこと。

きっと私は毎日毎日、もう何も感じることもなく泣き続けるだけの日々がこの先繰り返されるのだろうと思っていた。

風がふわっとかける。
遠くで追いかけっこをしているポルクとマルクの笑い声が聞こえる。

全てが灰色に、無味で、無音で、無感動な世界だった私の感覚は段々とリアルになる。


サーベルト兄さん、ズルいよ。


段々と兄さんが薄れていく気がする。
どうして忘れさせようとするの?
兄さんのことを思い出そうとしても、どんどん濃い霧の中に入り込むような不安な気持ちに襲われる。


そうやってまた逃げちゃうんだ。
兄さんはズルい。


私は少しだけ、自分でも何を言っているのかわからないほどに小さな声でつぶやくと、お茶の時間を告げにきたメイドに振り返って、そして兄さんのお墓に背を向けた。



<了>