見ていた




「おい、飯だぞ。」
「おお、ありがとよ。」
いつもいつも繰り返す言葉。

あいつの顔は 見えない。
あいつの目を おれは知らない。






見てるなあと思ってはいた。
はじめはただ、おもしろかったからだ。
けれど今では、理由はよくわからない。
いつの間にわからなくなったのか それもわからない。


ウソップの目はくるくると動く。
ウソップは回るように、いろんな顔をする。
しょっちゅう泣いて、すぐに怒って、いっぱい笑う。
それがおもしろくて、おれはウソップを見てた。



おれは知ってる。
誰かのそばにいるとき、ウソップは全部違う顔を見せること。
チョッパーと遊ぶとき。
ルフィとじゃれあうとき。
ウソップはめちゃくちゃ楽しそうに笑う。
ナミにからかわれたとき。
ロビンと本を読むとき。
ウソップはちょっとはにかんだように笑う。
サンジの隣にいるとき。
ウソップはうれしそうに笑う。
うれしそうに。


おれを見るとき。
優しく笑ってるのを、見たことがない。
それは透明な、けれど不可思議な色だ。
おれは知らない。
ウソップがおれに見せる まなざしの名前を。











見られてるか?
そう思って振り向いたときは、大抵何にもなくてがっかりする。
そこにあるのは、独りでいるゾロ。
動いているか寝ているか、ともあれ無心であることだけは確かだ。


ダンベル振るってるときは ぎらぎらと睨んで
かーって寝てるときは ゆるやかに伏せて
とにかくそれだけに気持ちが向いている。 
目をみりゃあ、それは確かだ。



もひとつおれが知ってるのは、もっと彩のある目。
サンジに絡むとき。
ナミに絡まれるとき。
いらいらでやれやれ な目をする。
ロビンに微笑まれたとき。
ちりちりとした目をする。
チョッパーに怒られたとき。
へいへいって目をする。
ルフィが笑ってるとき。
きらきらと 強い目をして、笑う。
力いっぱいの目。


おれを見るとき。
どんな目、してたっけ。
珍しいものを見るような?
そうだ、そうか。
そうか?


見られてる ように思う。
けれど感じる視線はひどく優しい。
あまりにも優しいそれを、おれは知らない。
あんな穏やかなまなざし、きっとゾロじゃない。
そう思って、おれは今日もがっかりするんだ。














「剣士さんは、本当に長鼻くんが好きね。」

「あら逆よ。ウソップがゾロのこと好きなのよ。」






さあ、まなざしよ。
交差するのは、いつか。









徒花