運命のヒト







日曜日、今日は運命の日。
「おらウソップ、テメェの誕生日におれがわざわざディナー作ってやるんだ。ありがたく荷物持てよ。」
「マグロ丸ごととかはやめろよな。チャリ漕がなきゃなんねえんだから。」
おっちゃんおばちゃんに揉みくちゃにされながら、八百屋・肉屋・魚屋を一回り。
「おし、これで完璧だな!」
「うえー、重そう…」
「ほら、気合入れて、とっとと行くぜ!」
「あ、帰る前に!」
そうかと思い出し、ふたり見つめあってから、にーっと笑った。



そこは4階、華も愛想もない下着売り場。
「パンツパンツパンツー♪」
「なんだそりゃ」
「おう、おれさまのために作られた運命のパンツを捜し求める冒険の歌byおれだ。」
「てか、でかい声でパンツパンツ歌うなよ。ガキみてぇ。」
ビニールはバリバリと盛大な音を立て、セールのワゴンはがさごそと情けない悲鳴を上げる。
「おいウソップ、これどうよ?」
「水玉ぁ?やだよ恥ずかしい。」
「いいと思うけどな。赤地に白で。」
「じゃあテメェではけよ…あ、ボーダー。」
「お前ボーダー5枚もあるじゃねえかよ!」
とりあえず、水玉とボーダーは候補から消える。



「なあサンジ。」
「あぁ?…ってお前それ、伝説のパンツなのか?そのピンクラメ。」
「違うわ!いやテメェ、いい加減あのピンクのブリーフ、捨てたらどうだ?」
「嫌だ。通気性いいし。」
「ハート模様だぞ?しかも赤。」
「絶対嫌だ。」
「何で。」
「おれらしくねえ?」
「ええこの上なく。」
「だろ?」
「だからやめとけって言ってんだよ、ピンクキチガイ。」
「唐草模様パンツのお前に言われたくねえよ!」
「お前が言うか!」
「今時分、泥棒でも持ってねえぞ。それに萎える!」
「あ、じゃあ当分使うことにしよ。」
お互い、どうにも合わないときもあるけれど。
けれどそれさえ。



「お、虎ジマ発見!」
「うお、カッケー。」
「ファンキーだよな。色もいくつかあるんだなー。」
「正直おれ、ヒョウ柄よりこっちのが好きなんだよな。」
「あ、それわかる。」
「何気にいいよな。」
「やたら強そうだしな。」
「強いな。」
「鬼のパンツだもんな!」
「あははは、そうだそうだ、いいパンツ!」
「強いぞー♪」
「強いぞー♪」
鬼のパンツを振り回しながら、ふたりで歌う。
バカみてェなこの空気が好きだ。



「そういや来週、あいつらウチ泊まんのか?」
「おう、ルフィとゾロな。」
「冷蔵庫すっからかんになるぞ。」
「もう観念したよ…。」
「なあ、サンジ。」
わなわなと震えながら、振り向いた。
「…これ、誰のだ?」
手にあるのは、煌々と輝く、紅いサテンのTバック。
無言。

―せえの。


「「ゾロ」」



それからたっぷり1分27秒、涙が出るまで笑い続けた。
かなりキワドいパンツ抱いて、よじれそうな腹抱いて。
隣で笑う肩抱いて、ふたりで。




「ヤッベ、来週楽しみになってきた。」
「な。あ、風呂入ってるときにパンツすりかえしねェ?」
「ハハ、目ん玉飛び出して怒るぞ。」
「いや、逆に喜んだりして。」
「うーわ、やだー。」
「しなるなしなるな。」
「そういやさ、ルフィってどんなパンツかな。おれ想像できねェ。」
「ってかあいつ必要あんのか?パンツ。」
「いや全く。」
「な。」
おんなじことに笑って、おんなじように思って、おんなじように見つめる。
おかしなパンツ握ってても、骨ばった手ェ握ってても、剥き出しの肩握ってても。



「ほら選べよ。おれはやっぱコレ。」
「まあ、これだな。」
「おし、今日はテメェの誕生日だ、一枚奢ってやるよ。」
「安っ!」
「何だよ。」
「\498だぞ!」
「愛だろ。」
「…ヤラシイ。」
「お互い様だ。」
優しいだけじゃない、ケダモノな体温と眼差しが好きだ。
おれを全部知ってるお前が好きだ。
おれが少しずつあばいてゆくお前が好きだ。



青地に黒い線の走る鬼のパンツと、黒地に黄色い稲妻の貫くいいパンツ。
最強伝説の始まりだと、またひとしきり笑って。
ひとつずつ増えた運命の荷物を抱えて、自転車に乗った。

「競走!」
「負けるか。」

ギアあげて、ぎゅんぎゅん走ってゆく。
信号が青に変わったら一気にスパートだ。
「行くぜ。」
「おう!」
運命の帰り道を、ふたり全力で走り抜ける。
みんなではこう鬼のパンツと、大声で歌いながら。





鬼のパンツはいいパンツで十年経っても破れない
それが本当かは知らないから ふたりで見に行こう
優しさも苛立ちもヤラシさもこえて この日を迎えてくれたお前と
自転車こいで 世界の果てまで


なあ、運命のヒトよ。
どうか、このまま。








徒花