わななく背中越しに聞こえる声は震えるばかりだった。
そのあどけない響きは意味を成さなかった。

だからおれはひたすら突き上げ続けた。
もう無理だもう、
切れ切れのそれは言葉ではなかった。
だからおれには届かない。


ずちゅ、ずちゅと湿った音ならあいつにも届いているだろうか。
それともずっと鳴り続けていたからもう聞こえないだろうか。
振り向こうとするからおれは遮る、腰を握る手に力を加え、がくがくと振ってやった。


一番弱いところをひとつ強く突くと、ひゃあと声あげて尻を上げる。
嬉しいんだろう、もっと欲しいんだろう?
問うようにがつがつと突いてやると、傷の残る腰はゆら、と揺れた。
ほれ見ろと薄く笑う。

ウソップ。
この音で思い出せ。
その身体で思い出せ。


思い知れ。





――ゾロ、おれずっと




砂の国での戦いのあとだ。


滑らかな雨をぼんやりと眺めながら酒を飲んでいた夜のことだ。
でっかい酒瓶を3本携えて、よたよたと渡り廊下を歩く姿が見えた。
手伝うか、と訊ねると、一緒に飲もうと返された。

「よかった、見つかって」
「どういう意味だ」
「違う国に行っちまったってことも有り得るだろ、お前なら」

あひゃひゃ、とついてきたバカ笑いは、ずいぶんと懐かしかった。



色んな話をした。
それはメリーの上のように、暢気で穏やかで、ひどく陽気だった。
けれど夜が更け行くにつれて、どういうわけかバカ笑いは消えてゆく。

「なあゾロ、おれたちは死ぬところだったんだ」
「…ああ、そうだな」
「これからも、いつ死ぬか分からない」
「海賊だからな」
「だからおれ、決めたんだ」
「何を」




ぎし、と床板が呻る。
背を見せて這うウソップをおれがまた強く犯したからだ。
膝には痣が出来ているだろう、可哀想にな。
軋む音にきゅうんと鳴き声が交じる。

おれを呼んでいるような気がした。
応えるように強く突いたら、汗がぱたぱたと目の前の背中に落ちた。


そして思い出した。
一線を越えるのに、それほど時間はかからなかったな。




おれにその気があった訳じゃない。
けれど。
手をつなぐと笑った、抱きしめてやると笑った。
キスしてやると、笑った。
女みてぇに可愛がってもらうのが好きらしかった。
だからおれはあいつが照れるほど可愛がってやった。


「ゾロ」
お前が好きだった、と張り詰めた面持ちでお前が告げたから、
おれはお前のそばにいようと思ったんだ。
ウソップ。
おれのそばでお前は笑ってた、嬉しそうに。



けれどあの日、お前は

「弱ェ仲間は要らねェんだろ?」


傷だらけの身体して、お前は決然とおれに背を向けた。






まともな思考なんざとうに失せて、今はただ目の前の哀れな雄を追い詰めることだけを求めて動く。
おれたちのそばを、音は通り過ぎていく。
吐き出した精液が鳴らす水音、打ち合う肌の乾いた音、それに声。



――お前が好きだった。
――ずっと見てた。


嘘を吐け。
お前は船とルフィだけしか見てなかった。
あの時お前の目にはおれなんか映ってなかった。


それだけでおれにはもう十分だった。


豪華に焼かれる司法の島から無事に逃げ切ったのを確認してすぐ、
ふざけた仮面を引っぺがしてそのままウソップを押し倒した。





くたん、と崩れ落ちた身体のなかにもう一度精液をぶっ放す。
指先の力まで全て持ってかれたようなその射精の後に、目の前の背中に被さった。

荒い息。
おれとウソップの乱れた息が、重なる。

するとかすかに、ウソップがおれの方へと向いた。
泣きじゃくった後の、快楽に呑まれた後のとろけた瞳に、おれが映る。


「ぞ、ろ」

掠れた声でおれを呼んで、力の入らない腕をかすかに伸ばした。




「ゾロぉ・・・」
そしてウソップはおれの髪に触れて。
鼻先を、頬を摺り寄せた。



「ゾロ、」






ああ、その目に、その声に、その仕草に思い知る。




おれの身体は伸ばされた腕の中に収まり、 いつかおれを見なかった嘘吐きに何度も口付けていた。







徒花