Q



‐傷と抱擁‐







「なあ、サンジはどうやって強くなったんだ?」



 アロエだのニンニクだのを色々ぶち込んだシチューは、あとはひたすら煮込むだけだった。
それを待って一服ついているところへ、調合を済ませたあいつもやってきたのだ。

そして聞いた。
どうやっておれが強くなった?


「どうした?いきなり。」
そう返すと、そいつは大きな目を祭壇に向けた。

「おれ、みんなと一緒に海賊になったつもりだったんだ。」
「うん。」
「怪我の手当てをしたときも、ありがとうって言ってくれたから」
「ああ、そりゃマジでありがたいさ。」

「だから、みんなの役に立ってるつもりだったんだ。」


つもりだった。

たなびく紫煙を見つめて、おれは次の言葉を待った。



「でも、おれはなんにも守れない。」

小さなトナカイは、ますます小さくうつむいた。

「おれが船を守れなかったのに、ウソップは笑ってくれたんだ。」

「それが、ムカついたのか?」
すると、その目はぱっとおれの方に向いた。
「すごく嬉しかったんだ。」
その顔は、そうは言ってねェだろうが。
返す間もなく、あいつは言った。


「でも、すごく悔しかったんだ。」



悔しい。


「ウソップ、あの船、すっごく大事にしてたのに」

「おれ、みんなのこと大好きなのに」

「みんなはおれを守ってくれるのに」

「みんなの大切なものひとつも、守れないんだ。」




守ることのできない悔しさ。
守ってくれた人を、守ることのできない悔しさ。




ふぅーっと紫煙を吐き出した。

「じゃあ、問題な。」
「モンダイ?」

まずは、簡単なのから。
「ルフィは強いと思うか?」
そりゃあもちろん、と、元気な声が返ってきた。
「どんな敵にも、全力でぶつかっていって倒していくんだ。」

うん、妥当なところ。


「じゃあ、ゾロは?」
強いな!と嬉しそうに答えた。
かっこいいなぁ、と無邪気に言ったのは無視することにした。


「おれは強いか?」
うん、サンジも強いと思う。
サンジもすっごくカッコいいぞ、と言いやがった。

当たり前だよな。

「ロビンちゃんはどうだ?」
強いなあ、めちゃめちゃ強そうな奴にも、すっごく怖いときにも、全然動じないんだ。


「ナミさんは?」
ふふふ、だって誰も敵わないじゃないか。

おれも一緒に、へへ、と笑った。


それでは、応用問題。



「ウソップは強いと思うか?」


「強いよ!すっごく!」

驚くほど早く答えが返ってきた。
「そりゃあ、力で言ったらゾロには敵わないし、度胸だってルフィみたいにはない。
サンジみたいに、カッコよくたたかう事もできないのも、知ってる。
でも、強いんだ。」

「どういうとこが?」

「仲間のためになら、絶対絶対逃げないんだ。
それで、勝っていくんだ!」



…上等。
「チョッパー、」
おれは思いっきり笑って、あいつの頭をわしわしと撫でた。


「おまえは強くなるぜ。」


そうとだけ呟いて、おれはシチューの側に戻った。
あいつはまだ、おれに撫でられた頭を抱いてきょとんとしてる。
きっと気付いちゃいないんだろう。





夜、あいつは踊りつかれて、幸せそうに眠っていた。

おれは隣に横たわり、そっと腕に抱いた。
少しでも、さっきの答えが伝わるように。





あの長っ鼻がお前を責めなかったのは、船を必死で守ろうとした、お前の傷を見たからだ。




「強くなるさ。」

ひたむきなお前の目が、心が、全てが、こんなにも伝えてるじゃねェか。
何が強いのか、お前がちゃんと知ってるってことを。

大切なものをこの手で守りたいと、お前が強く願うことを。



どうだ、誰かに似てると思わないか?





お前が持っている それはかけら


だからおれたちみんな、強くなったんだ